原題:Barren Illusion

ねェ、このまま終わっちゃうの? 不安定な世界の中で、恋人たちは永遠を見つけだす。 黒沢清監督が、初めて描く愛の物語。

1999年ヴェネツィア国際映画祭正式出品作品

1999年/日本映画/上映時間95分/35mm/カラー/ 製作:映画美学校+ユーロスペース/配給:ユーロスペース/宣伝:ビターズ・エンド

2000年10月22日よりビデオ発売・レンタル開始 2003年07月25日よりDVDリリース 2002年2月22日ビデオ再発売 1999年12月11日よりユーロスペースにて公開

初日舞台挨拶::http://www.nifty.ne.jp/rforum/fcinema/topics/199912/12.htm

公開初日 1999/12/11

配給会社名 0131

解説

ねェ、このまま終わっちゃうの?
不安定な世界の中で、
恋人たちは永遠を見つけだす。
黒沢清監督が、初めて描く愛の物語。

 世紀末の喧噪も、新世紀を迎えた高揚も過ぎ去った2005年。
 国内には様々な国籍を持つ人々が暮らし、空には外出もままならないほどの花粉が舞っている。
 恋人同士のハルとミチは、出会った頃のときめきは失っていたが、そんな世界の中で落ちついた関係を手に入れていた。
 ハルは音楽関係の仕事に就いてはいるが、全てを持て余している、今となっては、自分が消えてなくなりそうな不安を追い払うことで精一杯だ。
 ミチは郵便局の受付をしながら、ときどき海外小包を失敬している。小包の中身は彼女のコレクションとなり、彼女のここではないどこかへ馳せる想いは強くなってゆく。
 次第にすれ違ってゆく、ハルとミチの日常を淡々と描きながら、黒沢清監督は次第に見るものの視線をスクリーンの外側へと誘ってゆく。
 2000年を過ぎてから、何があったのか調子が悪いコピー機にミチは悪戦苦闘しているし、生殖機能を奪ってしまう花粉症の新薬テストか行われ、戦争でも起こっているのか海の向こうからは兵士の死体が流れ着く。なり続ける警報機の音の中、向かいのアパートの女がミチの部屋に逃げ込んでくるように、様々な不安が当たり前のように彼等の生活に飛び込んでくる。
 映画の中では描かれていない部分への興味、疑問を見るものに感じさせながら、ひたすらにハルとミチの関係を描いてゆく。
 ここに黒沢清監督の手によって、まだ誰も見たことがない、まったく新しい愛の物語が誕生する。

 『大いなる幻影』を含む近作3作品が、ベルリン・カンヌ・ヴェネチアの三大映画祭に出品される、という前例のない快挙を成し遂げた黒沢清監督。世界的な評価が高まる中、10数年来の念願の企画であった『カリスマ』を完成させた。続いて、休む暇も在くはじめての愛の物語『大いなる幻影』を映画美学校の生徒たちとともに撮り上げた。時代が追いついた今、黒沢清監督の新しい挑戦は軽快に続いてゆく。

ストーリー

今夜もいつものようにいきつけのカフェで時間を潰しているハル。かつてはここで女の子に声をかけたりしたこともあったが今はそんな気もなくなっている。カフェからの帰り道、ハルはあやしい3人組が盗んだ金庫をこじ開けようとしている現場に立ち会ってしまう。リーダー格の男がハルに言う。「消えろよ」。 ハルの仕事は、高校時代からの友人である健二と二人で経営している小さな音楽制作会社だ。健二が創った音楽をハルが売る。それは極めて簡単な仕事で、取引先の佐竹もその仕事にたいして重要性を感じていないようだ。20代なかばにして、ハルは時間を持て余してしまっている。昔は自分が何を欲していたか知っていた気もするが、いまとなっては、思い出すこともできない。ハルはしばしば自分が消えてなくなりそうな不安に襲われる。 ハルの恋人のミチは海外への郵便を専門に扱う郵便局で働いている。今日も様々な国への小包を扱う。日付のスタンプは2005。時は2005年なのだ。ミチはそれらの小包を小さな窓口から受け取りながら、ここではない世界のどこかのことを夢想している。そんなミチの秘密は、こっそりと小包を失敬してしまうことだ。それは外の世界に向けてのミチヘの思いなのだろうか。 ハルとミチが付き合いはじめてから一年になる。二人は愛し合っているが故に、ようやくお互いの距離を感じはじめて不安になっている。ハルは時間がそれを解決するだろうと考え、ミチは何かをしなけれぱと焦っている。 ある日、ペットショップの前を通りかかったハルは小さな犬をショーウインドウの中に見つけて、興味を覚える。ミチに飼ってみないかと誘ってみるが、そういう自分ですら本当に欲しいのかどうかわかっていないことに気づいてしまう。そんな自分を試すかのように、ハルは一匹の大型犬を手に入れる。 ミチの部屋の窓から見える団地に住むカンフルはよく喧嘩をしている。ある日、女の方がミチの部屋に逃げ込んでくる。どうやら、日本人ではないらしいその女は、結局、男に連れ戻されるが、匿おうとしてくれミチに、お礼にと民族衣装をプレゼントする。 ハルは保健所の係員に例の犬を引き渡してしまう。その頃から二人はぎくしゃくしはじめる。ちょうどこのころ、街には正体不明の花粉が舞いはじめ、人々は外出もままならなくなっていたのだが、二人はその対策の新薬のモニターになっていた。その薬には副作用が有り、自分たちの生殖能力が失われることを知っていながら…。 健二が田舎へ帰ってしまったのをきっかけに会社をたたんでしまったハルは、たまたま再会した佐竹に誘われて、例の3人組の仲間に入る。だが、ハルに分け前を渡す佐竹には以前と変わらず覇気がない。苛立ちに駆られてハルは佐竹に殴りかかる。「なんだよ!楽しいからやっているんじゃないかよ!」 いなくなっていたミテがハルのもとに帰ってきで、ハルを誘って海へと行く。そこで二人はどこかの国から流れ着いたらしい兵士の死体を見る。ミチはここではないどこかを、自分がユートピアとして夢想していたことを思い知らされて感極まってしまう。落ちつかせようとするハルは、最後の拠り所ならば自分がいるじゃないか、と呼びかけても、ミチは「どこにいるの」とその存在をはかなく思う。二人はまたしても別れ別れになってしまう。 何ヶ月かが過ぎ、ミチは再び郵便局の受付に座っていた。そこで、ある日、おこった事件が思いがけずミチとハルを再会させる。ハルと一緒、それだけで十分だと気づいていたミチの目には、ようやく再会できたハルの姿は確かな存在感をもっている。ミチはうずくまるハルに手を差し延べる。

スタッフ

監督・脚本:黒沢清
プロデューサー:堀越謙三、松田広子
撮影・照明:柴主高秀
照明協力:渡部嘉
録音:菊池信之
美術:松本知恵
特殊美術:松井祐一
美術協力:木村将裕、五十嵐正行、ウォーターメロン
スタイリスト:水谷郷
スクリプター:御園生涼子
音楽:相馬大
編集:大永昌弘

キャスト

ハル:武田真治
ミチ:唯野未歩子
佐竹:安井豊
村井:松本正道
健二:稲見一茂
秋子:億田明子
不良A:市沢真吾
不良B:相馬大
不良C:元宮正吾
団地の女:陳黛英
団地の男:リ・コウジ
ミチの隣人:モハメッド・ムーサ
不良に襲われる男:諏訪太朗
カフェのカップル女:吉野晶
カフェのカップル男:山口博之
郵便局の同僚:村主暢子、中田美紀
ミチを誘う男:山下正人
カフェで絵葉書を売る女:野村律子
カフェの美少女:福井廣子
空港カウンターの係員:長門かおり
空港カウンターの上司:大島功嗣
空港カウンターの客:石田道人
郵便局の配送係:山本直輝
犬を連れ去る保健所の係員:小西八恵
サポーターたち:東京外国語大学ブラジル研究会
ファシスト:青山真治、泉雄一郎、熱海史郎、
      石住武史、柴野淳、浦井崇、川口俊平、谷口二郎
マスクをつけた家族:鈴木章浩、鈴木瞳李、小口容子
看護婦:近藤麗子
ハルの後輩:佐野淳子、志水健一
佐竹の部下:小林妙子、山口哲史

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