原題:Bacheha-Ye Aseman

世界中で愛される感動作

1999年第71回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート 1997年第21回モントリオール国際映画祭グランプリ、       観客賞、国際カトリック協会賞、国際批評家連盟賞 1997年ロサンゼルス国際映画祭正式出品 1998年ニューポート映画祭最優秀外国映画賞 1998年第11回シンガポール国際映画祭最優秀アジア映画賞

1997年イラン/ミラマックス・フィルムズ提供/児童青少年知育協会作品/カラー/1時間28分/ モノラル /ヴィスタサイズ(1:1.66)/日本語字幕:小田代和子、ショーレ・ゴルパリアン/ ノベライズ:角川書店より六月下旬刊行予定 提供:アスミック・エースエンタテインメント、フジテレビジョン 配給:エースピクチャーズ

2000年4月21日よりDVD発売 2000年4月21日よりビデオレンタル開始 1999年7月24日より、シネスイッチ銀座にて公開

公開初日 1999/07/24

配給会社名 0007

解説

「運動靴と赤い金魚」は、市川準監督作「束京夜曲」が監督賞を受賞した1997年第21回モントリオール国際映画祭にて、グランプリ、観客賞、国際カトリック協会賞、国際批評家連盟賞の4部門に輝いた。その他の国々でも次々と映画祭で上映されて評判を呼んでいった。日本でも98年のアジアフォーカス福岡映画祭で上映、観客は主人公である兄妹の走る姿に拍手し、心温まるラストシーンに胸を熱くした。来日したマジッド・マジディ監督は大絶賛を浴び、熱心なディスカッションも行われた。
翌99年には第71回アカデミー賞で「ライフ・イズ・ビューティフル」、「セントラル・ステーション」なとと共に外国語映画賞にイラン映画として初めてノミネートされ、名実ともに世界中で愛される映画として話題になった。

生き生きと輝く子供たちの世界

イラン映画には児童映画が多い。それはイランにはイスラム教の規範に則った検閲があるために、それに引っ掛かってしまう様々な問題をすりぬけようと監督たちが見つけだした解決法なのである。しかし、結果的にはアッバス・キアロスタミの「友だちのうちはどこ?」やジャファール・パナヒの「白い風船」のように、児童映画の範疇にとどまらず、世界中の映画祭で認められるような優れた作品を生み出してきた。兄妹の心の触れ合い、家族の絆を描いた本作「運動靴と赤い金魚」も、まさにそうした作品の1本である。
本作は、子供たちが悩みながらも懸命に日々を生きている素晴らしさを見事に描いている。大人になれば何でもなくなるようなことでも子供たちにとっては大事であり、その中で悩んだり喜んだり憂えたりしながら成長していく。子供たちには小さいながらも自分たちの世界が厳然と存在し、親が怖くて言えなかった悩みを自分たちなりに解決しようと努力する。本作は、そんな“純真”なだけではない子供たちの複雑な心の機微を彼らの目線でストレートに見つめることによって、自分たちの世界でこそ輝く鮮やかな表情を切り取っている。そして子供の大事を丁寧に追いながら、現在のイランの社会状況を巧みに織り込んでいく。家賃滞納で毎日大家に文句を言われる両親。母親は他人の家の絨毯を洗濯して日銭を稼ぐが腰を患う。マラソン大会に集まる小学生たちは階層、地域が違っており、様々なジャージやスニーカーを履いている。そして、アリ父子が稼ぎに出かける富裕階級の人々が住む高級住宅街。反面、両親は隣の老夫婦に夕飯を分ける思いやりを忘れず、モスクで飲むお茶のための砂糖も決して自分たちのためには使わない。こうした現在の社会や、そこで生きる人々への目配りがあるからこそ、アリとザーラの悩みがリアルに普遍的なものとして迫ってくる。だからこそ、観客は兄妹を応援しながら一緒に走るのである。

次代を担う豊かな感性

監督、脚本のマジッド・マジディは子供を通して大人の世界に問題を提議している。大人の社会に起こったことも、子供の世界を通して描くことでずっともっともらしく見えてくるという。彼がたった5ケ月で脚本を書き上げ、世界中の映画祭で高い評価を得られたのは、こうしたはっきりとしたヴィジョンを持っていたからである。
映画はザーラの靴を修理する靴屋の手元のアップのショットで始まる。クレジットが流れる中、音楽も無く、靴をたたく金槌の音のみが聞こえてくる。そして、アリが修理した靴を持って店を出て、八百屋で靴をとられてしまう。この明快な導入部からラストシーンまでの見事なストーリー・テラーぶり。抑制されたセリフ。説明しすぎない編集。イランの現在を見つめる風景の切り取り方。そして兄妹の目線をしっかり捉えて表現する演出。まさにキアロスタミの後を担う、国際舞台での活躍が楽しみな監督である。

こだわりのキャスティシグ

  メインキャストは殆どが素人である。なるべく役柄に近い人物を起用したいという監督の希望で、ユニークな視点でのキャスティングになった。主人公のアリ役のミル=ファロク・ハシェミアンは、小学校で先生に叱られて泣いていたところをマジディ監督が目撃し、その哀愁漂う目が決め手で抜擢された。妹ザーラ役のバハレ・セッデキはキャスティングそのものは簡単に決まったものの、引っ込み思案な彼女の性格から返事をもらうまでに時間がかかった。そして最もこだわったのは兄妹の父親役だった。監督はその性格設定からトルコ人にしたかつたが、トルコ訛はプロの俳優でさえ難しい。スタッフはトルコ系移民が集まる茶屋を1軒1軒まわり、演技も巧みなトルコ人の素人をやっと見つけ出した。こうしたキャスティングヘのこだわりが、誰にでも親しまれ愛される作品を作り上げたのだ。

ストーリー

少年アリは修理してもらったばかりの妹ザーラの靴を買い物の途中でうっかり失くしてしまう。屑屋が誤って持っていってしまったのだ。親にも言えず、靴が一足ずつしかないふたりは、まず妹がアリの運勤靴を履いて学校に行き、下校途中で履き替えて次にアリが学校に行くことにする。そのためアリはどんなに走っても遅刻してしまい、先生に目をつけられてしまう。
アリの家は貧しく、母はよその家の洗濯物を洗って家計を助けているが、大家から毎日のように文句を言われている。ぎっくり腰も患って、母はいつも気分が優れない。そのことで父も小言が多くなり、靴のことはますます言い出せない。一足の運勤靴を大切に履こうと、ふたりは片方ずつを一緒に洗う。だがザーラはやっぱり、アリの靴をはいて学校に行くことに我慢できない。アリの運勤靴はぶかぶかで、脱げて溝に落ちてしまったり、学校でもいつも恥ずかしく思っていたのだ。そんな時、ザーラは失くなった自分の靴を下級生が履いているのを見つけた。靴を返してもらおうとアリとふたりでその子の家まで出かけるが、彼女の父親が目が見えないこと、自分たちよりもつつましい暮らしをしていることを知って言い出せなくなる。
モスクの集会で、金持ちの家に飛び込みで庭の手入れに行くと、いい小遣い稼ぎになると教えられたアリの父は、早速休日にアリを連れてお屋敷街に向かう。臆して戸惑う父だったが、アリの機転で上手く仕事にありついた。アリと同じ年ごろの少年がお爺さんとふたりで住んでいる家では、報酬もはずんでくれた。帰り道、アリが父に妹の靴を新調してくれと頼むと、このアルバイトを続ければ何でも買ってやれると言ってくれた。だがその直後、ふたりの乗った自転車のプレーキが利かなくなって街路樹に衝突し、父は大怪我をしてしまう。やっばり靴は、買ってもらえそうにない。
そんな時、小学生のマラソン大会が行われることになり、アリの学校でも選手が募集される。よく見ると3等の景品は運動靴。新品の靴ならは、靴屋で女の子の靴と換えてくれるだろう。締め切りは過ぎていたが、アリはどうしても出場しなければならないと頼み込み、先生もアリのタイムを測って出場させることにする。いよいよマラソン大会の当日。アリは妹のために3等になろうと必死に走るのだった。

スタッフ

監督・脚本・・・マジッド・マジディ
製作・・・児童青少年知育協会
撮影・・・パービズ・マレクザデー
美術・・・アスガル・ネジャド=イマニ
編集・・・ハッサン・ハッサンドスト
メイク・・・モフセン・ムサヴィ/ナジ・ヘシュマティ
録音・・・ヤドラー・ナジャフィ
ミキシング・・・モハマド=レザ・デルパク

キャスト

アリ・・・ミル=ファロク・ハシェミアン
ザーラ・・・バハレ・セッデキ
アリの父・・・アミル・ナージ
アリの母・・・フェレシュテ・サラバンディ
アリの先生・・・ダリウシュ・モクタリ

ローヤー(ザーラの学校の下級生)・・・ナフィセ・ジャファール=モハマディ
ローヤーの父・・・モハメド=ハッサン・ホセイニアン
ローヤーの母・・・マスメ・ダイール

靴修理屋・・・アッバス=アリ・ルーマンディ
八百屋・・・ジャファール・セイフォラーヒ
アリレザ(屋敷街の少年)・・・モハマド=ホセイン・シャヒディ
アリレザのお爺さん・・・カゼム・マスカプール
靴屋・・・ダーヴット・シャムズ

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