つぼみ

1980年、民主化運動のリーダー金大中（現韓国大統領）逮捕を発端に、その釈放と民主化を要求して武装蜂起した金羅南道米州市に対して、全斗煥を中心とする軍人グループが戒厳令を投入した。本作は、この多数の犠牲者を出した米州事件を題材に、ごく最近までタブーとされ語られる事の無かった事件の傷跡に迫る問題作である。
純真で汚れを知らない少女は、クーデターに巻き込まれ、目の前で母親を縦断で失う。茫然自失のまま、護送車に乗せられ、家族とも生き別れひとりぼっちになった少女は、心に受けた傷を癒せないままソウルへとたどり着く。ある日、彼女の前に現れた中年男チャンは、彼女を残酷にも陵辱し、あばら屋に連れ込み、まるで奴隷のように扱うのであった。少女の記憶とともにフラッシュ・バックされるクーデターの模様は、生々しく観る者に迫り、酷い仕打ちと暴力の果てに狂人のようになり街をさまよう少女の姿は事件が未だ癒されることのない深い傷跡を人々に残した事を物語る。