原題:another day in paradice

伝説の写真家ラリー・クラークが描く ードでスウィートなティーンエイジ・ラブ

☆みちのく国際ミステリー映画祭'99出品作品::http://www.lantecweb.com/mystery/index.html

1998年アメリカ映画/106分/カラー/配給:松竹富士

1999年7月31日より渋谷シネマライズにて公開

公開初日 1999/07/31

配給会社名 0003

解説

赤茶けた大地に伸びる葉かげを腰をかがめて少年は走る。周囲に油断のない視線を配る、手負いの獣のように…。『アナザー・デイ・イン・パラダイス』は、ストリートで暮らす少年がドラッグと暴力と犯罪に染まりながらも、心の奥底で“ぬくもり”と“自由”を求めるロード・ムービーだ。旅の道づれは、愛する少女。幼くて、衝動的で、危うくて。それでも命にも代えがたい想いを抱いて、ふたりは肩を寄せ合う。それは、ハードでスウィートなティーンエイジ・ラブ。もしかしたらみつかるかもしれないパラダイス=居場所を求めてひたすら愛しあい、止まることはない。一見、やり切れない破滅への旅ではあるけれど、それでもどこかにぬぐい去れない優しさが滲み、ギリギリのところで見る者の心を救ってくれる。この衝撃と安堵の後味は、さすがラリー・クラークだ。
監督ラリー・クラークは60年代から70年代にかけてドラッグに彩られたストリート・サブカルチャーを扱った写真集『タルサ』などで多くのクリエイターたちに独自の影響を与えた伝説の写真家。そして、その感性と経験をさらに昇華させ1995年には『KIDS』で監督デビューを果たし、自らもストリートで暮らす若者たちのヒーローである彼は、荒んだ生活を送るティーン・エイジャーの生態を半ドキュメンタリー・タッチで描ききり、全世界をセンセーショナルな衝撃で包み込んだ。第二作目の本作でも、日常的になったティーンのセックスとドラッグ、そして犯罪へ走る姿のリアルな描写は健在だ。また、どんなに突き放した語り口をしていても、そこにはクラーク自身のティーンに向ける温かい視線が感じられるのも、前作同様。いや、その深く慈愛に満ちた思いは、経験を重ねるごとに熱く確かなものになってきている。
16歳のボビーはドラッグ中毒で泥棒。彼が愛しているのは、ロージーだけ。そんな彼が盗みに入った大学の警備員に袋だたきにされた。そのケガの治療をしてくれたのが、友達の叔父のメル。中年の彼はボビーのタフさを見込んで、シカゴでのもうけ話に誘い込む。翌日、メルの運転するキャデラックに、ボビーとロージー、そしてメルの情婦シドが乗り込んだ。
メルを演じたジェームズ・ウッズが製作も担当。となれば、その入れ込みようは言わずもがな。時に抗しがたいカリスマ性と父性を発散させながらも、残忍で冷酷で狡猾な犯罪者根性もたっぷり持ちあわせるメルを熱演。これまで、アカデミー賞主演男優賞候補になった『サルバドル/遥かなる日々』(86年)や、同じくアカデミー賞候補になった「ゴースト・オブ・ミシシッピー」(97年)など、多彩な役を演じてきた彼は、そのキャリアを余すところなく生かし複雑なメルのキャラクターを作り上げている。そして、監督クラークの温かい視線をスクリーンに反映する存在感を発揮しているのはシド役のメラニー・グリフィス。セクシーな情婦でありながらも、ボビーとロージーという若いふたりに限りない優しさを注ぎ、ボビーを守るためにはメルに逆らう強さも披露する。88年の『ワーキング・ガール』でアカデミー賞候補になって以来、各ジャンルの作品で活躍してきたが、近年はセクシーなだけの熟女役が多かった。それだけに、エモーショナルな演技を披露できる深みのあるシド役は久しぶりのハマリ役だ。
しかし、なんといっても本作の成否の鍵を握っていたのがボビーを演じるヴィンセント・カーシーザー。悲しみを暴力でしか表現できない孤独なティーンの激しさや不敵さを持ちながら、その美しい顔だちとあどけない笑みゆえに、けして野卑にはならない。だからこそ見る者はいじらしさに胸を痛め、共感をそそられる。ボビー役はカーシーザーにとっては、はじめてシリアスな作品の主役を担うもの。このルックスといい、自然でパッショネイトな演技といい、ポスト ディカプリオの評判がたつのも当然。まさに新世紀のスター誕生の予感ありだ。
また、天使のように純真で無垢な愛をボビーに注ぐロージーを演じたナターシャ・グレッグソン・ワグナーも、期待できる若手。透明感のあるピュアな美しさを持ちながら、時折見せるアンニュイな雰囲気にはドキッとさせられる。
ガラスのように脆いパラダイスを求めて暴走するティーンの姿を描いた原作は、エディ・リトルの同名小説。ニューヨーク・タイムスが“麻薬を打ったような興奮した文体は、ハンター・トンプスンやウィリアム・バロウズを喚起させる”と絶賛しているが、じつはこれこそ刑務所暮らしまで経験しているリトルの半自伝的な作品。そのディテールの確かさやリアリティに定評があるのもむべなるかな。そして、そんなリトルの世界を脚色したのは、ジェームズ・ウッズと共同で製作も担当しているスティーブン・チンとクリストファー・ランドン。撮影は『マイ・プライベート・アイダホ』『KIDS』のエリック・エドワーズ。くせのあるスタッフによるアンダーグラウンドな世界観を巧みに融合させた監督のお手並みは鮮かだ。
99年月、仏コニャック映画祭でグランプリを受賞(過去に『もういちど殺して/キル・ミー・アゲイン』(89年)『シャロウ・グレイブ』(94年)などが受賞)のほか、日本公開を前に特別なニュースがひとつ。全米公開時の編集に疑問を持つ監督が新たにハサミを入れ直し、よりラリーらしさを感じさせるディレクターズ・カット版が実現したことである。

ストーリー

16歳のボビーはドラッグ中毒。ケチなこそ泥で食いつないでいる。そんな彼が、大学のキャンパスに盗みに入った。いつものように自動販売機の金をくすねてズラかろうとしたとき、運悪くデブの警備員に見つかってしまった。執拗に殴りかかる警備員にボロボロにされたボビーだが、やっとのことで逃げ延びた。傷ついたボビーがたどり着いたのは愛するロージーの部屋。友達ダンは、軍隊で医者のまね事を覚えた叔父のメルに手当てをたのんでくれた。やってきたメルは“こういう時にはヘロインがいちばんさ”とボビーの腕に針を差し込む。軽口を聞ききながらも凄みと頼りがいを感じさせるメル…。数週間後、メルはボビーをシカゴまでの旅に誘う。もちろん、それは犯罪の旅。メルはボビーの中にある“熱さ”と“タフさ”が気に入ったし、利用できると考えたのだ。同行するのは、ロージーと、メルの情婦でブルックリン生まれのセクシーな熟女シド。
ゴージャスなホテルの部屋でメルはボビーに警報器の扱いを教え込む。そしてロージーとシドがショッピングをしている間には、仕事場の下見もやった。メルの狙いは金持ちご用達の病院。土曜日に襲えば2日分の収益と、ドラッグが手に入るという計画だ。仕事は簡単に成功した。ふたりはまんまと大金とドラッグを持ち帰り、有頂天になったボビーはロージーとセックスをする。つかの間のあたたかさ、安らぎ。ふたりはひとつに溶け合って快感を堪能する。
翌朝、ロージーはボビーに妊娠を告げた。まだ早すぎると思うボビーだが、彼女は産む決心をしている。それを知ったシドは大喜び。しかし、ハシャぐ彼女をメルは冷ややかにみつめ、ふたりは険悪になる。大人の事情に戸惑うボビーとロージー。
メルとボビーは、ガン・ディーラーの牧師から拳銃を買った。そして、ドラッグを売りさばく仕事を始めた。「これだけは覚えておけ。ガンは自分の守る最終手段だ。やたらにふりまわすんじゃない」メルの教えも耳に入らないほど、ボビーはエキサイトしていた。そしてある日、信用できない客がやってきた。“ヒトラー狂”というバイカー集団だ。案の定、ブツの受け渡しの最中にトラブルが発生し銃撃戦が始まった。奴らはロージーとボビーを殴り、メルの肩を銃でぶち抜いた。しかし、機転を効かせたシドが銃を放ち、ボビーも銃で応戦し、皆殺しに。これがボビーにとって初めての殺人だった。
とりあえずそこから逃げ出した4人は、ガン・ディーラーが暮らすコミューンにたどり着く。ゆっくりとした時間の中で、ボビーもメルも傷を治していったが、流産してしまったロージーの心の傷は癒えない。「こんな生活に耐えられない」と泣くロージー。だか、回復したメルは早速新たな仕事に取り掛かる。宝石店のオーナーとグルになった保険金詐欺。メルとボビーが店に忍び込み5万ドル持ちだせば、10万ドルの保険金がはいるというものだ。依頼人にうさん臭さを感じるボビーだが、シブシブ仕事を了解した。
ホテルでは傷心のロージーがドラッグをキメていた。「行かないで!」とすがりつくロージー。歯車の狂い始めたかりそめのパラダイスにかすかな不安を覚えるボビーは、それでも彼女を振り切って宝石店へと向かう。

スタッフ

監督・ラリー・クラーク

キャスト

ヴィンセント・カーシーザー
ナターシャ・グレッグソン・ワグナー
ジェームズ・ウッズ
ラニー・グリフィス

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