★97年ベルリン映画祭出品作品

1997年製作/アメリカ映画/上映時間101分

2002年03月22日よりビデオ発売開始

解説

監督のニック・ゴメスは荒いタッチのデビュー作「ロウズ・オブ・グラビティ」(未公開)で、シネマ・ヴァリテというジャンルに挑戦した。もっと沈んだトーンながらも感傷的にはならない2作目「ニュー・ジャージー・ドライブ」では、市場を狙ったのではなく、ちょっと控え目なタッチを維持して、全体のバランスを取ろうとした。そして、この「イル・タウン」では大胆な新しいスタイルを創りあげることで、鏡の向こう側へ通り抜けてしまったようだ。そのスタイルをナルコティック・リアリズム(麻酔的なリアリズム)とでも呼んではどうだろう。不穏な雰囲気を宿した静けさと不安定な感覚が印象的に描かれるのだ。夢の断片のような映像や曖昧な描写もある。ディゾルブするテキスチャー、反復するアクション、さらに主格がさまざまに変化する未来を暗示するフラッシュフォワード。それによつてこの映画のリアリティのあり方が変わっていき、ありのままの姿から抽象的な姿へと縦横無尽に移っていく。こういう大胆なカット編集と遠回しの表現には本当にビックリさせられる。かつての騒々しい「ロウズ・オブ・グラビティ」をもっと静かなタッチに変えれば、このい「イル・タウン」のような作品になるのだろうか。構成力の見事さ、鋭い編集センス、観客の心をとらえる音楽の使い方、アンサンブル演出法の的確な手腕。デビューから4年たったニック・ゴメスの絶えず変化を恐れぬ熱意ある映画作りは素晴らしく、魅力的な大胆さに溢れている。起用されたラパポート、テイラー、コリガン、トレスといった俳優たちもみんな最高の演技を見せる。

 ゴメスはいつもの作品同様、反社会的な人物(ケチないかさま師、車泥棒、ドラッグ・ディーラー)の罪の償いというテーマに関心があるようだ。アウトローたちの誇りとユーモア、それに仲間同士の絆、家族との和解や、法律と関係(警察や法律が事件を動かしていく)、こうしたテーマをこれほど、うまく描けるアメリカのフィルム・メーカーはちょっと他にいないだろう。最初の2本は社会的な力を背景に描かれていたが、今度はもっと内面に目がむき、実体のない精神的な領域へと踏み込んでいく。その映像スタイルと静けさ、オフビートなやりとりが印象的で、説明のつかない行動が登場し少しずつ真相が暴かれ、突然、暴力が荒れ狂う。下層生活に関して、抽象的で、かなり、熟考を重ねた挑戦的な表現がこの映画では作り出されていく。この世界では、金やステイタスではなく、精神と魂が危機に直面するのだ。

 「イルタウン」では、悪いものがさらに最悪な形で描かれていく。ガムリエルとリリー(アンジェラ・フェザーストーン)のジャンキーとしての関係は、実はダンテとミッキーの平和な家庭生活や内心抱える罪悪感を歪んだ形で映し出す、鏡のような役割を果たしているのだ。そしてガブリエルが雇った反社会的な行為を見せる冷酷な新人類のティーンの暗殺団はダンテの雇った、ちょっと変わっているが基本的には忠誠心を失わないティーンのディーラーと対照的だ。また、映画の冒頭場面に「愛はけっして滅びない」(ゴメスが語るところによれば、彼がロケ現場で見付けた)という、さびれたビルに書かれた落書きが映し出されるが、これはガブリエルやダンテを変化させるヘロインとあまりあまり関係がない。ダンテとミッキーの愛や、後半の予期しない時に登場するシスコの長い回想における愛の償いと関連づけられている。実際に起きる事件はそれほど重要ではなく、このゴメスの詩的な抽象スタイルの世界ではすべてがあいまいなものとして描かれる。

 冗談まじりに精神的な変化を断片的に描く手法、宗教的な暗示、はっきりとした言葉では表現出来ない含蓄のある瞬間。ある人にとってはこうしたものが何か重要な手がかりを示しているように思えるかもしれない。そして、同時にこうしたスタイルは、最近行き詰まりを見せているジャンルを袋小路から救い出すための、興味深い、魅力的な策略なのかもしれない。とにかくこの映画は成功している。ダンテの警察への連絡係であり、精神的なアドバイザーでもある人物(アイザック・ヘイズ)が言うのも一理ある。「楽な突破口をを捜しているのなら、結局、自分の探しているものは見つからない」。

ストーリー

「悪い夢か?」仕事仲間のダンテ(マイケル・ラパポート)が目覚めた時シスコ(ケヴィン・コリガン)は彼にそう訪ねる。このセリフは「イル・タウン」の内容を見事にいい当てている。ヤッピーのようにきちんと仕事をこなす3人のドラッグ・ディーラーたちの前に、内心、ひそかに恐れていたものが蘇ってくる。そしてあのおなじみの抵抗しがたい転落の物語が始っていく。荒れ狂う暴力の袋小路の中から精神的な「癒し」を見出していく。NY新鋭監督が描く斬新な秀作。

スタッフ

監督:ニック・ゴメス
脚本:ニック・ゴメス
撮影:ジム・ディノー
録音:ジェフ・クーシュナー
編集:トレイシー・グランガー
音楽:ブライアン・キーン

キャスト

ダンテ:マイケル・ラパポート
シスコ:ケヴィン・コリガン
ミッキー:リリ・テイラー
ガブリエル:アダム・テレス
リリー:アンジェラ・フェザーストーン

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