原題: Forushande

・第89回アカデミー賞外国語映画賞イラン代表 ・第69回カンヌ国際映画祭脚本賞&主演男優賞W受賞 ・第74回ゴールデングローブ賞外国語映画賞ノミネート ・2016年ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞外国語映画賞受賞 ・第52回シカゴ国際映画祭審査員特別賞受賞 ・2016年ミュンヘン国際映画祭 ARRI/OSRAM賞(外国語映画賞)受賞 ・ワールド・シネマ・アムステルダム2016観客賞受賞 ・第21回サテライト・アワード 外国語映画賞受賞

2016年 /イラン・フランス合作 /配給:スターサンズ、ドマ

2017年6月10日

(C)MEMENTOFILMS PRODUCTION - ASGHAR FARHADI PRODUCTION - ARTE FRANCE CINEMA 2016

解説

(C)MEMENTOFILMS PRODUCTION – ASGHAR FARHADI PRODUCTION – ARTE FRANCE CINEMA 2016

本年度アカデミー賞Ⓡで最も注目を集めた話題作! 二度目の受賞という快挙!
2017年のアカデミー賞Ⓡで一番の話題となった作品『セールスマン』。トランプ政権のイランを含む特定7ヵ国からの入国制限命令に抗議して、イラン人であるアスガー・ファルハディ監督と主演女優タラネ・アリドゥスティが授賞式へのボイコットを表明し、連日大きくニュース報道された。その渦中にあって見事に外国語映画賞を受賞し、国境や信教を超えて作品が高く評価されたことに世界中が胸を熱くした。ファルハディ監督は『別離』(11)でも同賞を獲得しており、二度目の受賞という快挙を成し遂げたことになる。第69回カンヌ国際映画祭でも脚本賞、男優賞をダブル受賞した本作は、全米では2017年1月27日にたった3館で限定公開されたが、その週公開の作品でアベレージ1位となる大ヒット・スタートを記録した。

世界が待ち望んだアスガー・ファルハディ監督の新たなる傑作
ファルハディ監督は、今や世界的に最も新作が待ち望まれるフィルムメーカーのひとりと言っても過言ではないだろう。『彼女が消えた浜辺』(09)でベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)に輝いたのち、『別離』(11)では再びベルリンにて金熊賞と銀熊賞(男優賞、女優賞)の主要3部門を独占し、アカデミー賞Ⓡの外国語映画賞を受賞。さらにカンヌ国際映画祭に出品された『ある過去の行方』(13)では、ベレニス・ベジョに女優賞をもたらした。イランには今なおイスラム文化指導省による検閲制度が存在するが、ファルハディ監督はその創作上の厳しい制約をものともせず、人間や社会がはらむ多様かつ複雑なテーマを鋭くあぶり出す。緻密にして繊細で、安易な感傷に流されない確かな脚本と演出に裏打ちされた緊迫感あふれる語り口は、国境を超えて世界中の映画ファンの絶大な支持を獲得している。
観る者を“感情のスペクタクル”へと誘いざなう圧巻のクライマックス!

日常が激変する濃密な心理サスペンス
主人公は、テヘランに住む国語教師エマッドとその妻ラナ。小さな劇団に所属し、俳優としても活動している若き夫婦の穏やかな日常が、突然降りかかった事件をきっかけに一変する。夫の留守中、引っ越して間もない自宅でラナが、侵入者に襲われてしまったのだ。警察に通報して犯人に罪を償わせたいエマッドと、事件を表沙汰にしたくないラナの感情はことごとくすれ違い、深い溝が生じ始める。やがて苛立ちを募らせたエマッドは自力で犯人捜しに乗り出すが、その行く手には夫婦の人生をさらに揺るがす意外な真実が待ち受けていた……。夫婦の葛藤を軸に、事件の思いがけない成り行きを紡ぎ上げた本作は、巧みな伏線が張り巡らされ、犯人捜しのドラマと登場人物の感情のずれがスリリングに絡み合う心理サスペンス。都会暮らしの知的で洗練されたカップルが、理性をかき乱されて後戻りのできない危険な事態へと突き進んでいくストーリー展開は、観る者の心を捉えて離さない。そして本作の最大の見どころは、復讐心に囚われたエマッドが自ら捜し出した“犯人”と対峙し、決着をつけようとするクライマックスである。登場人物の怒りや不安、悔恨の情がドラマティックに錯綜し、圧倒的な緊張感が持続するそのシークエンスは、まさに“感情のスペクタクル”と呼ぶにふさわしい。

物語を重層的に響かせるアーサー・ミラーの戯曲「セールスマンの死」
劇作家アーサー・ミラーのピューリッツァー賞受賞作「セールスマンの死」。この1949年にニューヨークで初演されたミラーの初期の代表作は、過去の幻影にすがって生きる初老のセールスマンの悲劇的な末路を描いたもの。ファルハディ監督は時代の変化に取り残されたこの戯曲の主人公の境遇を、急速に近代化が進むイランの社会状況に重ね合わせたという。本作の劇中にはエマッドとラナが主演を務める「セールスマンの死」の舞台シーンが随所に挿入され、映画に豊かな奥行きを与えるとともに、現代的なライフスタイルと伝統的な価値観の狭間で生きる夫婦の姿がこのうえなくリアルに綴られている。

(C)MEMENTOFILMS PRODUCTION – ASGHAR FARHADI PRODUCTION – ARTE FRANCE CINEMA 2016
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ストーリー

「みんな、逃げて! 早く外へ!」。テヘラン在住の若い夫婦エマッド(シャハブ・ホセイニ)とラナ(タラネ・アリドゥスティ)の穏やかな日常は、突然の大声によって打ち破られた。隣の敷地で行われている強引な建設工事のせいで彼らが住むアパートが倒壊の危機にさらされ、住人が一斉に避難する騒ぎになったのだ。国語教師のエマッドはラナとともに地元の小さな劇団に参加しており、上演を間近に控えたアーサー・ミラー原作の舞台「セールスマンの死」の稽古に忙しい。住む家を失った彼らに劇団仲間が紹介してくれた賃貸物件には前の住人である女性の私物が大量に残されていたが、一日も早く落ち着きを取り戻したい夫婦はそのアパートに移り住むことにする。

ふたりが慌ただしく引っ越し作業を終え、「セールスマンの死」の初日を迎えた夜、衝撃的な事件が発生した。夫よりもひと足早く劇場から帰宅したラナが、正体不明の侵入者に襲われたのだ。「……いったい誰が?」。エマッドが息せき切って病院に駆けつけると、バスルームで倒れていたラナを救ったアパートの隣人が「あの女の客ではないか」と答える。“あの女”とはエマッドらが借りたアパートの前の住人のことで、“ふしだらな商売”を営んでいたその女性は何人もの男を部屋に連れ込んでいたという。

この事件以来、夫婦の生活は一変した。頭部に包帯を巻いた痛々しい姿で退院したラナは精神的にもダメージを負い、めっきり口数が少なくなった。一方、エマッドは自宅のソファの上に犯人が置き忘れていった携帯電話と鍵束を発見する。携帯はすでに解約されていたが、鍵はアパートの近くに止めてあった白い軽トラックのものだった。それに階段に残された足跡から察するに、犯人は足にケガを負っているようだ。犯人特定の重要な手がかりとなるトラックを確保したエマッドは、「警察に行こう」とラナに語りかけるが、事件を表沙汰にしたくない彼女はそれを頑なに拒み、自宅に引きこもるよりも芝居を続けたいと主張する。しかしその夜の公演は、つらい記憶が脳裏に甦ったラナが舞台上で取り乱したために途中でキャンセルとなった。

その後も事件のショックから立ち直れないラナと、やり場のない苛立ちを募らせるエマッドの感情はすれ違い、夫婦仲は険悪になっていった。そして自力で犯人を捜し出すことを決意したエマッドは、トラックの所有者を割り出してあるパン屋にたどり着く。そこで働くマジッドという若い男こそが憎き暴行犯ではないか。そう確信したエマッドは配達に出たマジッドを尾行し、彼を誘い出すために偽りの仕事話を持ちかける。
妻に惨たらしい暴力をふるい、夫婦生活を滅茶苦茶にした張本人と1対1で対峙するチャンスを得たエマッドは、前の住みかで今は廃墟のようなアパートでマジッドを待ち受ける。ところが怒りの復讐心を煮えたぎらせるエマッドの前に現れたのは、まったく思いがけない別の人物だった……。

 

スタッフ

監督:アスガー・ファルハディ
製作:アレクサンドル・マレ=ギィ
アスガー・ファルハディ
脚本:アスガー・ファルハディ

キャスト

シャハブ・ホセイニ
タラネ・アリシュスティ
ババク・カリミ
ファリド・サッジャディホセイニ
ミナ・サダティ
マラル・バニアダム
メーディ・クシュキ
エマッド・エマミ
シリン・アガカシ
モジュタバ・ピルザデー
サーラ・アサアドラヒ
エテラム・ブルマンド
サム・ワリプール

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