追憶と、踊りながら

衝撃的な『パフューム　ある人殺しの物語』での映画主演デビュー以来、『クラウド アトラス』や「007」シリーズのQ役など数々の作品で強い印象を残し、現在の英国俳優ブームをベネディクト・カンバーバッチらとともに牽引する、ベン・ウィショー。共演に、アジア映画の伝説のヒロインとして知られるベテラン女優チェン・ペイペイ。この2人が驚くべき化学反応で映画を輝かせ、サンダンス映画祭のオープニングを飾り、見事撮影賞を受賞。ブリティッシュ・インディペンデント・アワードでは主演女優賞、プロダクション賞、新人監督賞の3部門にノミネート、BAFTA英国アカデミー賞でもホン・カウ監督が英国新人賞にノミネートされた注目作がいよいよ公開となる。

ロンドンの介護ホームでひとり暮らすカンボジア系中国人のジュン（チェン・ペイペイ）。英語ができない彼女の唯一の楽しみは、息子のカイ（アンドリュー・レオン）が面会にくる時間。ジュンは、息子の友人リチャード（ベン・ウィショー）が嫌いだ。けれどリチャードは、彼女の幸福を気にかけ、ジュンが同じホームの英国人男性アラン（ピーター・ボウルズ）と交際できるよう、言葉が通じない彼らのために通訳を雇うが……。

2013年にスクリーン・デイリー紙の【明日のスター】の一人に選ばれた、カンボジア生まれでロンドン・ベースの若手監督ホン・カウ、待望の長編第一作。特筆されるのは、まず、カウ監督の繊細な演出。「自分の経験や、パーソナルなもの、親密に感じる部分をこの映画には投影させたかった」と語る監督が、自身の母への想いを重ねあわせた物語だ。「静かに共鳴する室内劇（chamber piece）」（Variety）、「細部が、愛を再生する。愛、そして悲しみ。それは結局のところ、言葉を超える音楽のようなもの」（Indie Wire）と絶賛され、ラストにはあふれる想いで涙が止まらなくなる感動作を完成させた。

さらに、もちろん必見は、ベン・ウィショーの素晴らしい演技だ。昨年、自身の同性婚を明かしたベンだが、本作ではゲイの青年を演じ、スクリーンで初めて見せる等身大の佇まいも大きな魅力。また、ベン演じるリチャードの恋人であり、ジュンの息子という、本作のキーとなる人物を演じている新人アンドリュー・レオンの美しさにも注目を。
原題の「LILTING」には、“軽やかな、弾むような”という意味があり、邦題にもそんなニュアンスが生かされている。今回解禁されたビジュアルは、ベン・ウィショーとチェン・ペイペイの繊細な表情を捉えた写真をメインに、物語のキーとなるアンドリュー・レオンがまるで追憶の中のように浮かび上がっている。果たして、この三人におこるドラマとは？愛する者を失った喪失の痛みと、それでも消えることのない記憶の輝きを、深くやさしく描き、溢れる涙をいつしか軽やかな旋律に変える『追憶と、踊りながら』。5月23日の公開が今から待ち遠しい。