原題:Jimmy's Hall

2014年/イギリス/カラー/109分 配給:ロングライド

2015年1月17日(土)、新宿ピカデリー&ヒューマントラストシネマ有楽町他全国公開!

© Sixteen Jimmy Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Element Pictures, France 2 Cinéma,Channel Four Television Corporation, the British Film Institute and Bord Scannán na hÉireann/the Irish Film Board 2014

公開初日 2015/01/17

配給会社名 0389

解説


今に息づく自由という大樹
それはかつて“名もなき英雄”が蒔いた一粒の種———

イギリスが誇る世界的な名匠ケン・ローチが、
みずみずしく描き上げた“名もなき英雄”の伝説
 1960年代末に劇映画デビューして以来、労働者や移民などにまつわる社会問題をはらんだ骨太な映画を撮り続け、カンヌ、ベルリン、ベネチアの三大国際映画祭で受賞歴を誇る世界的な名匠となったケン・ローチ監督。スコッチウイスキーを題材にした心温まるコメディ『天使の分け前』が大ヒットを記録し、今なお日本で新たなファンを獲得している彼の最新作『ジミー、野を駆ける伝説』は、2006年にカンヌでパルムドールを受賞した代表作『麦の穂をゆらす風』と同じく、激動のアイルランド近代史を背景にしたヒューマン・ドラマだ。
  『カルラの歌』以降、ローチとタッグを組む脚本家のポール・ラヴァティ曰く、アイディアは時として天から授かり物のように降ってくるという。この物語も例外ではなく、ことの発端は、俳優で劇作家の旧友からだった。アイルランドの亡命希望者の苦境に光を当てた芝居を考案していた際、その窮状がある男と重なったというのだ。裁判も開かれずに国外追放の身となったアイルランド人———。その名もジミー・グラルトン。彼の人生に魅了されたローチとラヴァティとの旅がここから始まった。
 1932年、長らくアメリカ暮らしをしていたジミー・グラルトンが、久しぶりにアイルランドの片田舎の故郷に帰って来た。ジミーは年老いた母親との平穏な生活を望んでいたが、希望を失った若者たちの訴えに衝き動かされ、閉鎖された<ホール>(ルビ:集会所)の再開を決意する。かつてジミー自身が建設したそのホールは、地元の人々が芸術やスポーツを学びながら人生を語らい、歌とダンスに熱中した場所だった。そんなジミーの行動は貧困にあえぐ地域に活気をもたらすが、図らずもそれを快く思わない勢力との諍いを招いてしまうのだった……。
 アイルランド・リートリム州出身のジミー・グラルトンは、混迷の時代にリベラルな思想を唱え、庶民の絶大な支持を得た活動家だったが、名の通った歴史上の偉人ではなく、むしろそのプロフィールの細かな部分はほとんど知られていない。弱者救済の政治闘争に身を投じるかたわら、アートや娯楽をこよなく愛したジミーの人間性に感銘を受けたローチは、史実にインスパイアされた“名もなき英雄”の物語の映画化に挑戦。かくして近年のローチ作品において最も素朴にしてみずみずしい感動を呼び起こす、珠玉の“伝説”が完成した。

アイルランドの大地で自由を追い求めた男の、
時代を超えて心揺さぶる希望のメッセージ
 映画は10年ぶりに故郷に舞い戻ったジミーが、野にうち捨てられたかのようなホールを再生させるところから始まる。そのちっぽけなホールは権威主義的な教会や強欲な地主らに抑圧されていた庶民の憩いの場となり、先進的なコミュニティ・ホールの役割を果たしていく。ローチは老若男女が分け隔てなく人生について語り合い、音楽や詩の魅力に触れ、歌や踊りに興じる幸福な光景をカメラに収めるとともに、理不尽な弾圧にさらされていく彼らの過酷な運命を描出。ジミーがアイルランド人として唯一、裁判も開かれずに国外追放処分を下されるに至った経緯を映し出す。
 そして何よりローチがスクリーンに甦らせようとしたのは、ジミーの私利なき高潔な精神にほかならない。野を駆け、野に生きた労働者でもあった彼のリーダーとしての資質に加え、自由であることの尊さ、喜びにあふれた人生のすばらしさを訴え続けたまっすぐな思い。そんな眩い輝きを放つジミーの偽りなき行動や言葉は、希望に満ちた未来へのメッセージとして、誰しもの胸に深く刻まれることだろう。だからこそ、次代を担う若者たちへと受け継がれた彼の魂は、今もなお連綿と息づき、私たちの心を揺さぶってやまない。
 キャストには映画界ではほとんど知られていないが、演劇界などで活躍する実力派が揃った。とりわけ理想化された一面的なキャラクターになりかねないジミーの人物像に説得力を与え、豊かな人間味を吹き込んだ主演俳優バリー・ウォードは、本作の大いなる発見と言えよう。驚いたことに演技経験が一切なく、ケン・ローチの名前さえ知らずに撮影に参加し、ジミーの賢母アリスに扮した新人女優アイリーン・ヘンリーの味わい深い演技も必見である。また前作『天使の分け前』に続いてローチと組んだ撮影監督ロビー・ライアンの仕事も特筆もの。緑生い茂るアイルランドの大地をダイナミックに捉え、月明かりのダンス・シーンに繊細なロマンティシズムを滲ませた映像美が、知られざる英雄の伝説を美しく彩っている。

ストーリー



我々は人生を見つめ直す必要がある。欲を捨て、誠実に働こう。
ただ生存するためではなく
喜びのために生きよう……
自由な人間として」!

1932年、10年ぶりに祖国の地を踏んだ実在の人物ジミー。
多くの若者や民衆の心を掴んだ、この私利なき高潔な男は、やがて伝説となった——。

 1932年、国を分断した悲劇的な内戦が終結してから10年後のアイルランド。アメリカで暮らしていた元活動家のジミー・グラルトン(バリー・ウォード)が、10年ぶりに祖国の地を踏み、リートリム州の故郷に帰って来た。かつて地域のリーダーとして絶大な信頼を集めたジミーは、気心の知れた仲間たちに歓待され、昔の恋人ウーナ(シモーヌ・カービー)とも再会を果たす。以前と変わらぬ美しさを保つウーナは、すでに結婚して2児の母親になっていた。ジミーの望みは、年老いた母親アリス(アイリーン・ヘンリー)の面倒を見ながら穏やかに生活すること。しかし畑仕事を終えたある日、道ばたでダンスに興じていた若者たちから、閉鎖されたホール<ルビ:集会所>の再開を訴えられたジミーの脳裏に、忘れえぬ記憶がまざまざと甦る。
 10年前、ジミーらが自らの手で建設したそのホールでは、地元の老若男女が集まって芸術やスポーツを学び、人生や政治について自由闊達な議論を交わしていた。教会の監視の目を気にすることなく、歌やダンスに熱中できるその場所は、地域住民の心のよりどころでもあった。しかし土地の借用権をめぐる闘争に関わったジミーは、社会の秩序を乱したといういわれなき罪に問われ、ニューヨークに渡るはめになったのだ。
 内にくすぶる情熱を再燃させたジミーはホールの再開を決意し、仲間たちも協力を申し出る。ジミーが持ち込んだアメリカ製の蓄音機が奏でる音楽に導かれるように、大勢の住民がホールに集まり、貧困にあえいでいた地域はたちまち活気を取り戻していく。一方、その動きを快く思わない人々もいた。ジミーの影響力を最も警戒しているシェリダン神父(ジム・ノートン)は、ホールで催されたダンス・パーティーの来場者を逐一チェックし、翌日のミサでその名前を読み上げる。そして教区の住民を戸別訪問し、ホールに近付かないようにと強い警告を発した。危機感を抱いたジミーは、シェリダン神父の自宅に乗り込んで「ホールの運営委員に加わってほしい」と提案するが、シェリダンはその和解策にまったく耳を貸そうとしない。映画館で政治的な敵対勢力の挑発を受けたジミーは、その夜、月明かりに照らされたホールでウーナの手を握り、肩を抱き、かつて愛した女性への募る想いをダンスに代えて発露した。
 そんなある日、ジミーが以前所属していたIRAのメンバーが助けを求めてやって来る。地主によって不当に自宅から追い出され、妻と5人の子どもとともに路頭に迷っている労働者を救うため、力を貸してほしいというのだ。しかしジミーがそれに応じて行動を起こせば、全国的な土地問題への挑戦と見なされかねない。理想と現実の狭間で揺れるジミーは、賛否まっぷたつに割れた仲間たちの意見に耳を傾けたうえで、労働者のサポートに動き出す。
「我々は人生を見つめ直す必要がある。欲を捨て、誠実に働こう。ただ生存するためではなく、喜びのために生きよう……自由な人間として」!
 労働者を苦しめる社会の矛盾を糾弾したジミーの力強い演説は、そこに集まった貧しい庶民の胸を打った。しかし、それは新たな災いの始まりでもあった。
 ある夜、子どもから老人までがダンスを楽しんでいるホールに銃弾が撃ち込まれた。さらに何者かが火を放ち、地域の希望の象徴だった、かけがえのないそのホールは無惨に焼失してしまう。そしてジミーのもとには、国外追放の命令書を携えた警察の手が迫っていた……。

スタッフ

監督:ケン・ローチ
製作:レベッカ・オブライエン
製作総指揮:アンドリュー・ロウ
パスカル・コーシュトゥー
グレゴリア・ソーラ
バンサン・マラバル
脚本:ポール・ラバーティ
撮影:ロビー・ライアン
美術:ファーガス・クレッグ
衣装:イマー・ニー・バルドウニグ
編集:ジョナサン・モリス
音楽:ジョージ・フェントン

キャスト

バリー・ウォード
シモーヌ・カービー
ジム・ノートン
フランシス・マギー
アシュリン・フランシオーシ
アンドリュー・スコット
ブライアン・F・オバーン

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