2016年/112分/ステレオ/16:9/SD-DV 配給:オリオフィルムズ

2016年11月19日〜ユーロスペースにてレイトショー公開

公開初日 2016/11/19

公開終了日 2016/12/02

配給会社名 1344

解説


 2011年春。北海道阿寒湖生まれのアイヌの姉妹、絵美と富貴子。
姉の絵美は故郷を離れ東京の高尾に住みアイヌの歌や踊りを披露する日々、妹の富貴子は故郷、阿寒湖コタンで暮らし、家族と共にアイヌ料理店を営み、観光船でアイヌの歌を披露する。
ともに夫と3人の子を持つ母である。そんな性格も住む世界も違う姉妹が3・11の東日本大震災を経て、初めて姉妹でディオライブを目指して、動き始めた・・・。姉の絵美がに避難里帰りと子供の夏休みを利用してコタンに向かう、妹も戸惑いながらも母の応援もあり、初ライブに心ときめく。
2011年夏コタンの小さいライブハウスに姉妹の夢が叶うのか・・・
監督佐藤隆之は数々の映画に助監督として参加、そして、初のドキュメンタリーの本作で劇場デビュー。母として、アイヌの継承者として、歌を通して今伝えたいアイヌの姉妹の凛とした姿に魅かれた監督は実に5年もかけて編集し、遂に劇場公開にこぎつける。

【Kapiw & Apappo】
2011年に床絵美、郷右近富貴子の姉妹によって結成されたアイヌ伝統歌のユニット。
ウポポ(元はアイヌの座り唄)はじめ、ムックリ(竹製の口琴)、トンコリ(樺太アイヌ由来の弦楽器)も披露する。

監督コメント)
アイヌ民族──。かつてサハリン、千島列島、北海道から東北地方を中心に居住していた北方の民族だが、江戸時代から明治にかけて和人による同化政策のもと人口は減り続け、今ではおよそ3万〜5万人が北海道を中心に「日本人として」生きている。
同化の過程で差別と弾圧を受け、独自の文化も言語(アイヌ語:ネイティブの話者はすでに存在しない)も失われてきた。1970年代よりアイヌ民族復権運動がわき起こり、現在ではアイヌ語や伝統の木彫、刺繍といったアイヌ文化を学ぶ人も多い。
しかし、南の先住民族である琉球民族に比してその存在感はマイナーで一般には誤解も多く、ともすれば「暗い・貧しい」といったネガティブなイメージで捉えられがちである。
また、そうでなければ【自然と共生する民族】【すべてを神として敬う】といったイメージが強調され、美化され偶像化されてもいる。
アイヌ民族を扱った近年のドキュメンタリー映画においては「TOKYOアイヌ」(2010年)が差別の実態と先住民族としての権利獲得を目指す人々を描き、「カムイと生きる」(2011年)があるエカシ(長老)のキャラクターを通じて後者のアイヌ観を描いたといえる。
本作品では前掲した二作とは全く別の視点で、ごく普通の母親でもある二人の歌手を描いてみたい。
二人は共に現代アイヌ音楽における実力者ではあるが、敢えて肩肘をはらない。かといって伝統をないがしろにするわけではない。その歌声、楽器の音色には確かに祖先から連綿と受け継いできたものが宿っている。唄は何処から生まれるのか。
歌うこととはなにか。そんなことを個性豊かな二人の生活を通じて描きたい。
それは「民族」の括りを超えた「ニンゲン」としての普遍性を描くことになるであろう。
また近年、マイノリティヘイトの一環としてアイヌ民族否定論が台頭し、一部で激しい論争が起きたことも記憶に新しい。本作品をそれに対しての「やわらかな反論」ともしたい。

ストーリー





北海道阿寒湖生まれのアイヌの姉妹の2011年の物語。
東京高尾で暮らす絵美は3人の子どもを育てながら、ときにはアイヌ関連のイベントに呼ばれて歌や踊りを披露する日々を送る。初のインディーズCD発表から5年が経ち、最近では現在の音楽活動に行き詰まりを感じていた。海沼武史とのユニット「riwkakant」での新作録音の話にも、どこか乗り気になれない。その乗り切れなさは海沼自身も感じていたことだった。「アイヌ」に対する当初の思いは色褪せ、ユニット自体過去のものになろうとしていた。
慌ただしい生活の中、いつも絵美の頭をよぎるのは故郷・阿寒湖の景色だった。
「歌ってる瞬間にしかアイヌ民族っていないんだよ」
「だって日常生活にアイヌ語使ってるわけじゃないでしょ?」
海沼の、無遠慮なアイヌヘイトまがいの発言。絵美との共同作業でアイヌの歌い手・絵美をプロモートしてきたはずの彼にして、なぜこの発言?その裏には彼自身のアイヌに対する複雑な思いがあった。一方、阿寒湖アイヌコタンで暮らす富貴子は観光地の忙しい暮らしに追われ、日々披露する歌や演奏・踊りはいつしか【生活の手段】となっていた。
春となれば山に山菜を採り、草木染め、刺繍などのアイヌ文化を学ぶコタンの日常。
観光船での観光客とのやりとり。四季それぞれに美しい阿寒湖の風景。
コタンに根を下ろし伝統を受け継ぐことに誇りをもつ富貴子だが、姉の活躍ぶりに眼が行かないわけではなかった。姉を応援したい。私は私の路を…
幼い頃から共に唄や踊りを学んできた二人だったが、大人になってからは一緒にステージに立つことはなかった。絵美はアイヌの歌手として、コタンの外で徐々に注目されてきている。富貴子もコタンの中では中堅として存在感が高まっている。
そんな二人の共演を母・みどりや周囲の親しい人たちは願っていた。
その機も熟しつつある頃、東日本大震災が起きる。
東京でも放射線量は高かった。子供の避難を巡って揺れる絵美の家族。姉一家を気遣う富貴子。
そして絵美の避難に取り残された海沼の悔しさ…。
絵美は夏休みに入った子供を連れて阿寒湖に避難里帰りすることになる。
再会を喜ぶ姉妹だが、そこでは二人のデュオライブの企画が立ちあがっていた。
夫を東京に残した避難先でのライブに戸惑う絵美。
意に反した急展開に焦り、気後れする富貴子。
ふたりのユニットはそれぞれのニックネームをとって【Kapiw & Apappo】と名付けられた。
観光地での暮らしに忙殺され、リハーサルも打ち合わせもままならない日々が過ぎていく。
そんななかで富貴子は追い詰められ、周囲に対して刺々しい態度をとってしまう。
ある夜、ふたりは激しい口論となる。
「フッキにとって歌ってなに?なんで歌ってんの!?」
「仕事だから」「あたしはフッキと歌うとき、仕事は関係ない!」
翌日、ふたりは思い出の場所で、素直な気持ちを吐露し改めて心を通わせる。
心機一転、仕事の合間を塗ってリハーサルを始めるが、本番は5日後に迫っていた…。
仲良しのふたりが時に喧嘩し、反目しながらも支えあい、初めてのライブを成功できるのか
・・・・。

スタッフ

企画・監督・撮影・編集:佐藤隆之
音楽:メカ・エルビス

キャスト

床 絵美
郷右近 富貴子
海沼 武史

LINK

□公式サイト
□この作品のインタビューを見る
□この作品に関する情報をもっと探す