悪童日記
原題:A nagy fuzet
2013年/ドイツ・ハンガリー合作/ハンガリー語/デジタル5.1ch/シネマスコープ/111分/PG-12/字幕翻訳:吉川美奈子 後援:駐日ハンガリー大使館 提供:ニューセレクト/ショウゲート 配給:アルバトロス・フィルム
2015年03月04日よりDVDリリース 2014年10月3日、 TOHOシネマズ シャンテ、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!
(C)2013 INTUIT PICTURES - HUNNIA FILMSTUDIO - AMOUR FOU VIENN
公開初日 2014/10/03
配給会社名 0012
解説
世界中の読書人を驚愕させたロングセラー小説、待望の映画化
第2次世界大戦下、双子の兄弟が「大きな町」から「小さな町」へ疎開する。疎開先は、村人たちから「魔女」と呼ばれる祖母の農園だ。僕たちは、粗野で意地悪なおばあちゃんにコキつかわれながら、日々の出来事を克明に記し、聖書を暗唱する。強くなることと勉強を続けることは、お母さんとの約束だから。
両親と離れて別世界にやって来た少年たちが、過酷な生活のなかで肉体と精神を鍛え、実体験を頼りに独自の世界観を獲得していく。ハンガリー出身のアゴタ・クリストフによる原作は、双子たちの日記という体裁をとり、殺人も躊躇しない彼らの行動が簡潔に綴られたもの。1986年にフランスで刊行されると、ほぼ口コミによりベストセラーとなり、40にもおよぶ外国語に翻訳され、全世界を熱狂の渦に巻き込んだ。日本でも多くの著名人が話題にしブームとなった。
数々の文学賞に輝いた珠玉の小説の映画化は、これまで、ポーランドのアグニエシュカ・ホランド監督(『ソハの地下道』)やデンマークのトマス・ヴィンターベア監督(『偽りなき者』」)などが映画化権を獲得しながらも、実現に至らなかった。この、映像化不可能と言われてきた作品が、ついに出版からほぼ30年を経て、見事に映画に変換された。
原作のいくつかのエピソードを大胆に改編しながら、少年たちが自らの信念を貫いてサバイバルしていく主題を鮮やかに際立たせる。戦時下、大人たちの残虐性にさらされた彼らは、自らを律するため、あるいは邪悪な人間を罰するため、あるいは慈悲の心で、暴力行為を繰り返す。なんとしても強く生き抜く彼らのたくましさが、倫理の枠を超えて見る者を圧倒し、希望の光をも示してくれるのだ。
原作者アゴタ・クリストフの母国ハンガリーのアカデミー外国語映画賞代表作品に
原作者アゴタ・クリストフは、ハンガリーのオーストリア国境に近い村で、1935年に生まれた。1956年、ハンガリー動乱の際、夫と乳飲み子とともにスイスに渡る。フランス語が話せなかった彼女は女工として働き、離婚し、大学に通ってフランス語を学ぶ。詩や戯曲を同人誌で発表し続け、最初はハンガリー語で、のちにフランス語で書くようになり、初めて書いた小説『悪童日記』をフランスの名門出版社スイユから刊行。一躍その名は全世界に知れわたり、『ふたりの証拠』『第三の嘘』と続編も絶賛された。
原作では物語の舞台は特定されていないが、「大きな町」とはハンガリーの首都ブダペストと推測され、「小さな町」は、アゴタ・クリストフが9歳の頃に家族と移り住んだ、オーストリアとの国境近くの町クーセグがモデルと推測される。
ハンガリーのヤーノシュ・サース監督がついに映画化した本作は、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭(チェコ)でグランプリを獲得したほか、アカデミー外国語映画賞のハンガリー代表作にも選出された。
ヤーノシュ・サース監督の情熱が結実
1990年代半ばに小説『悪童日記』を読んだヤーノシュ・サース監督は、すぐさま映画化権の獲得を試みた。だが、その権利はアグニエシュカ・ホランド監督からトマス・ヴィンターベア監督、そしてドイツのコンスタンティン・フィルム社へと渡り、サース監督はチャンスを待ち続けた。ついに映画化権を獲得した3日後には、監督はスイス在住のアゴタ・クリストフに会いに行き、クリストフはそれまでの監督の映画作品を観たうえで、ゴーサインを出した。以来、彼らは定期的に会い、物語をハンガリーに設定したいという監督の案をクリストフは「自分が書いた物語が、自分のルーツである場所に帰郷することをとても喜んでいた」という。クリストフは、映画の準備段階だった2011年7月に亡くなった。
映画の成否を担う双子役探しは困難をきわめた。ハンガリーのすべての学校に連絡し、双子を探し続けること、半年。奇跡的に見出したジェーマント兄弟は、「僕ら」の天才的な知性ばかりか、美しさと野性味をも兼ね備えた理想の外見を持っていた。そればかりか、彼らは実際に貧しい小さな村の出身で、厳しい肉体労働をすでに熟知していた。
彼らを強力にサポートするのは、祖母役のピロシュカ・モルナール(『タクシデルミア ある剥製師の遺言』)、外国人将校役のウルリッヒ・トムセン(『未来を生きる君たちへ』)、父親役のウルリッヒ・マテス(『ヒトラー 〜最後の12日間〜』)ら、ヨーロッパの名優たち。そして、ミヒャエル・ハネケ監督作品で知られる名撮影監督クリスティアン・ベルガー(『白いリボン』)が、真夏から冬そして初春へと変わる田園の美しい陽光とともに、人間たちの心の闇を、陰影深く描き出していく。
ストーリー
僕らは、「大きな町」*1から、お母さんと列車に乗って、「小さな町」*2に来た。僕らのおばあちゃんが、町はずれに住んでいる。
今は戦争中、1944年8月14日だ。兵士のお父さんは、「双子は目立つから引き離そう」と言ったけど、お母さんが反対した。僕らは絶対に離れない。出発の前、お父さんから大きなノートを渡された。「このノートに日記を書きなさい」とお父さんは言った。
お母さんは20年ぶりに帰ってきたらしいけど、おばあちゃんは笑顔も見せない。別れぎわ、お母さんは「強くなってね。迎えに来るまで生きのびてね。何があっても勉強を続けるのよ。手紙を書くわね」と言う。僕らの仕事は、薪割りと水汲みと、鶏や豚に餌をやること。おばあちゃんちの敷地には川があって、川の向うはもう別の国*3だ。
おばあちゃんと町へ行き、リンゴやジャムを路上で売る。僕らより大きな女の子がリンゴを万引きする。女の子は、おばあちゃんちの隣の家の子で、目と耳が不自由な母親と暮らしている。なんでも盗む。そのうち僕ら3人は親友になって、町の酒場で寸劇などをして小銭を稼ぐ。
僕らは体を鍛える。互いに「メス犬の子ども!」「クソガキ!」などと罵倒しながら殴りあう。失神するまでベルトで殴りあう。目と耳を使わない訓練もする。
冬になり、雪が積もった森で遊んでいたら、負傷した兵士を見つけた。食べ物と毛布を持って引き返すと、兵士はすでに死んでいた。僕らは武器を盗む。あんなふうに死にたくないから、空腹に耐えることにする。4日間の絶食だ。郵便配達人からおばあちゃんが荷物を受け取るのを見た。お母さんからの手紙と温かい衣類だ。今までずっとおばあちゃんは僕らに隠していたのだ。ひどい。
「可愛い子どもたち。私のたったひとつの宝物。必ず迎えに行くからね」
お母さんを忘れなくてはいけない。思い出すと心が痛むから。僕らは精神を鍛える訓練として、お母さんの手紙と写真を焼く。鶏を可愛がってから、殺す。残酷さに慣れる訓練として、虫、魚、カエル、チョウを殺していく。
隣の家の女の子は寒さと飢えで衰弱していた。僕らは薪と食べ物を持っていく。「お金がいるんだ」と言ったら、女の子は「司祭様にもらえば? アソコを見せたらくれたよ」と教えてくれた。僕たちは司祭様からお金をもらうようになる。靴屋にゴム製のブーツを買いに行く。1足分のお金しかなかったけど、黒い帽子を被った靴屋のおじさんは、2足をタダでくれる。
おばあちゃんの家に、司祭館の若い女中がジャガイモを買いに来た。僕らがジャガイモを司祭館まで運ぶと、女中は僕らと一緒に風呂に入る。通りには、連行されていく人たち*4の長い列が続いている。女中は「靴屋を忘れている!」と大声で叫ぶ。靴屋さんまで走ると、おじさんは死んでいた。女中に「靴屋さんは友達だった」と言うと、「繊細すぎるわ。奴らはケモノなのよ」と事もなげに言い放つ。僕らは、死んだ兵士から奪った手榴弾を司祭館のストーブに投げ入れる。僕らは警察に連行される。女中が顔に大やけどを負ったのは僕たちの仕業だろうと、刑事から拷問される。おばあちゃんちの離れに住む外国人将校*5がやって来て、僕らを救い出してくれる。
将校は、離れから去って行った。噂では戦争が終わったらしい。おばあちゃんの提案で収容所を見に行ったが、煙突から黒い煙が出ているだけで、収容所には何も残っていなかった。別の軍隊*6がやって来る。外国の言葉を話している。隣の女の子は、外国の軍隊の戦車に乗せてもらい、そして、死体になって帰ってきた。女の子の母親は、目も見えるし耳も聞こえるし、喋れる。死にたいと言うから、僕らは家に火をつけた。
ある晩、赤ちゃんを抱いたお母さんが車から降りてくる。「早く車に乗りなさい」と言うけれど、僕らはここを離れたくない。あきらめられないお母さんが、車と家の間で迷っていたとき、空から爆弾が落ちてきた。
おばあちゃんは、お母さんと赤ちゃんの遺体を土の中に埋めていたとき、発作を起こして倒れる。体が不自由になる。おばあちゃんは僕らを呼んで、「次に発作が起きたら、これを1杯の牛乳に入れてちょうだい」と、小瓶を渡す。
お父さんが現れる。お母さんの遺体をちゃんとした墓地に埋めなおすと言って土を掘り起こし、赤ん坊の存在を知ってしまう。おばあちゃんがまた脳卒中の発作を起こす。僕らは言われた通りにして、おばあちゃんの体を清め、お母さんの隣に埋める。
お父さんは、「国境を越えないと捕まってしまう」と僕らに言う。国境の鉄条網まで行くのは一苦労だ。見張りもいるし、一帯は地雷だらけ。でも、大股で歩けば、成功する可能性がある。翌朝、僕らはお父さんを鉄条網まで案内する。
それは、僕らにとって最後の訓練でもある。別れという訓練だ。
*1「大きい町」:ハンガリーの首都ブタペスト *2「小さい町」:オーストリア国境近くの田舎町クーセグ
*3「川の向こうはもう別の国」:オーストリア、つまり当時のナチス・ドイツ *4「連行されていく人たち」:ナチス・ドイツ軍によって強制収容所に送られるユダヤ人たち *5「外国人将校」:ハンガリーを占領していたナチス・ドイツ軍の将校 *6「別の軍隊」:ハンガリーをナチス・ドイツから解放したソ連軍
スタッフ
監督:ヤーノシュ・サース
製作:サンドル・ソス、パル・サンドル
製作総指揮:アルベルト・キッツラー、ジェルジ・ズーフ、ヤーノシュ・サース
原作:アゴタ・クリストフ
脚本:アンドラーシュ・セーケル、ヤーノシュ・サース
撮影:クリスティアン・ベルガー
美術:イシュトバン・ガランボス
衣装:ヤーノシュ・ブレツクル
編集:シルビア・ルセブ
音楽:ヨハン・ヨハンソン
キャスト
アンドラーシュ・ジェーマント
ラースロー・ジェーマント
ピロシュカ・モルナール
ウルリッヒ・トムセン
ウルリッヒ・マテス
ギョングベール・ボグナル
オルソルヤ・トス
ザビン・タンブレア
ペーター・アンドライ
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