原題:Nashville

1975年/アメリカ/カラー/160分/ 配給:日本スカイウェイ、アダンソニア 配給協力:コミュニティシネマセンター

2011年8月6日より新宿武蔵野館にて公開

(c)1975 Paramount Pictures corporation

公開初日 2011/08/06

配給会社名 0107/1104

解説


カンヌ、ヴェネチア、ベルリンの世界3大映画祭最高賞をはじめ世界各地で数々の映画賞を受賞し、アメリカの俳優から“最も尊敬される映画作家のひとり”“20世紀最後の巨匠”とも称されたロバート・アルトマン。2006年11月20日、がんによる合併症のため81歳で惜しくも逝去したが、本作『ナッシュビル』(75年)はカンヌ映画祭パルムドール受賞作『M★A★S★H』(70年)やベルリン金熊賞に輝く『ビッグ・アメリカン』(76年)など、年に1,2本のペースであふれる着想を映画化していった黄金期ともいえる70年代の伝説の作品だ。

舞台はアメリカで最も保守的な町といわれ、カントリー&ウェスタンの聖地でも知られるナッシュビル。ここには歌手として、ミュージシャンとして成功しようという野心を持った男女が全米から集まってくる。映画はオープリーという有名なナッシュビルのフェスティバルに係る24人もの人間ドラマを、フェスティバル期間中の数日間を通して描いてゆく。しかもドラマと並行して政治への問題意識や人種差別、お祭り化した選挙キャンペーン、民衆のエネルギーなど、当時のアメリカ社会の意識のありようが浮かび上がる周到な物語だ。
この映画は、アルトマンの遺作となったラジオ音楽バラエティの舞台裏を描く『今宵、フィッツジェラルド劇場で』(2006年)やジャズの世界を描いた『カンザス・シティ』(96年)に先立つ、アルトマンの音楽ドラマの原点といえるだろう。24人ものオールスター・キャスト、カントリー&ウェスタンという音楽の力、「グランド・ホテル形式」でありながらそれぞれのエピソードがクライマックスへと結実する物語の映像化に成功した驚くべきスタイル、そして選挙の宣伝カーが流すコメントから男女の諍いに至るまで、相変わらずセリフも演出も細やかで乾いた、ブラック・ユーモア満載のアルトマン節……。

『ナッシュビル』は素晴らしい内容でありながら公開当時は今ほど情報化社会ではなかったためか、また2時間40分という上映時間もあって日本では3週間で打ち切りになったといういわくつきの作品だ(劇場公開:1976年4月3日〜4月23日/有楽町スバル座ほか1館/動員数:1万7410人/興収:¥18,815,800)。その後、公開される機会もほとんどなく、現在もDVD化されていないため、アルトマン・ファンでさえ目にすることがなかなか難しい、カルト的人気を誇る幻の作品なのである。
自伝によれば『ナッシュビル』製作のきっかけは前作『ボウイ&キーチ』(74年)の予算をユナイテッド・アーチストに出してもらうための引き換え条件だったという。本人はナッシュビルには一度も行ったことがなく、カントリー&ウェスタンに興味を持っていなかったため、脚本家のジョーン・テュークスベリーをナッシュビルに向かわせ、そこで起きた出来事を日記に付けさせた。彼女は『ギャンブラー』(71年)『ボウイ&キーチ』(74年)でも脚本を手がけたアルトマン一家の一人。そのエピソードをつなぎ合わせてドラマを作りあげたそうだ。

撮影はナッシュビルで10週間にわたって行われた。その間、スタッフ、キャストは全員同じモーテルに泊まり、ほとんどの時間を一緒に過ごすというアルトマンのいつもの撮影スタイルで行われた。同じひとつの映画に携わるスタッフ、キャスト全員が和気あいあいとした中で自然に演技ができる雰囲気を作り上げることによって、個々の俳優たちの自在なアドリブ演技を生む——役者にとってはそれこそがドキュメンタルな、アルトマン映画ならではの面白さ、なのだろう。ギャラに関係なく、アルトマン映画への出演を渇望する所以である。

豪華なキャスト陣はブロードウェイの実力派女優バーバラ・バックスリーや『華麗なるギャツビー』(74年)『エアポート75』(75年)で人気を博したカレン・ブラック、『三銃士』(73年)『四銃士』(74年)で当時注目を集めたジェラルディン・チャップリンをはじめ、『M★A★S★H』や『ギャンブラー』(71年)『ロング・グッドバイ』(73年)などにも顔をみせていたアルトマン一家の俳優というべきキース・キャラダイン、シェリー・デュバル、マイケル・マーフィ、バート・レムゼン、デビッド・アーキン、ティモシー・ブラウン、ヘンリー・ギブソン、ジェフ・ゴールドブラム、グエン・ウェルズ、キーナン・ウィンなどがドラマを支えている。
後に『ザ・フライ』(86年)や『ジュラシック・パーク』(93年)で有名になるジェフ・ゴールドブラムはこれが初めての本格的な映画出演作。また『羊たちの沈黙』(91年)のクラリスの上司役を演じたスコット・グレンや『ブルース・ブラザース』のネオナチのリーダー役で知られるヘンリー・ギブソン、そしてこれが映画デビュー作となったアメリカを代表するコメディエンヌ/リリー・トムリンやハリウッド映画に欠かせないバイ・プレイヤーとして活躍するネッド・ビーティなど、思わぬスター探しも楽しめる。
また『M★A★S★H』で人気を博したエリオット・グールドと『ダーリング』(65年)でアカデミー主演女優賞を獲得したオスカー女優ジュリー・クリスティーもカメオで登場した。

映画の全編を彩るカントリー&ウェスタンの歌のほとんどはカレン・ブラック、キース・キャラダインをはじめとする主演俳優自身が作詞・作曲したもので、サントラ盤も発売され、キース・キャラダインの歌った“I am Easy”はアカデミー最優秀歌曲賞を受賞した。

なお、この映画の主演俳優たちのギャラは一律1000ドル前後だったといわれている。

ストーリー


アメリカで最も保守的な土地柄で知られるカントリー&ウェスタン(C&W)の聖地、テネシー州の首都ナッシュビル。今日もガレージからハル・ウォーカー大統領候補のキャンペーン・カーがメイン・ストリートへ走り出し、蒸し暑い初夏の一日が始まった。

音楽スタジオではナッシュビルの大スター、ヘブン・ハミルトン(ヘンリー・ギブソン)がレコーディングの最中。隣のスタジオでは白人リードシンガーのリネア(リリー・トムリン)が黒人のゴスペルグループを従え、ゴスペルを熱唱していた。ナッシュビル・フェスティバルの取材に来たイギリスBBCのレポーター、オパール(ジェラルディン・チャップリン)は初めてのアメリカ、初めてのナッシュビルに興奮気味。マイク片手に町のあらゆる場所で取材する彼女はさっそくヘブンのスタジオにも潜り込むが体よく追い出されてしまう。

ヘブンは大スターに相応しい完ぺき主義者で気難しく、病的といえるほどの潔癖症。いつも息子のバッド(デイブ・ピール)やナッシュビル目抜き通りのクラブ「ピッキン・パーラー」を経営している名物マダム/レディ・パール(バーバラ・バックスリー)を従え、保守的で健全な“ミスター・ナッシュビル”のイメージをかたくなに守っている。そんなヘブンをテネシー州知事に推挙しようと画策しているのが、近くこの町でキャンペーンを予定しているハル・ウォーカー大統領候補である。

さて、ナッシュビル空港ではフェスティバルに出演するため故郷に帰ってくる地元出身のバーバラ・ジーン(ロニー・ブレークリー)の到着を待ち構え、セレモニーの準備が着々と進んでいた。バーバラは人気歌手コニー・ホワイトと人気を二分する地元の大スターだ。空港内のカフェではナッシュビルに流れ着いたイージー・ライダー(ジェフ・ゴールドブラム)が塩を使ったマジックでスタッフのウェイド(ロバート・ドキ)を驚かし、ウェイトレスのスーリーン(グウェン・ウェルズ)は彼に自慢の歌を歌ってみせる。そんな光景を眺めているのはウォーカー大統領候補のキャンペーンを成功させるべく奔走する地元の大物弁護士デル・リーズ(ネッド・ビーティ)だ。彼はキャンペーン参謀のジョン・トリプレット(マイケル・マーフィ)を出迎えに来たところだった。

デルとトリプレットが握手を交わす脇で一人、人待ち顔で立っているのはL.A.ジョーン(シェリー・デュバル)。入院中の伯母のお見舞いに来たはずなのだが、ホルタ—トップふうの胸当てとホットパンツ姿という裸同然の奇抜な恰好で、迎えに来た伯父のミスター・グリーン(キーナン・ウィン)とまともな挨拶もかわさないまま、すれ違った人気ロックグループ“ビルとメリーとトム”のスター、トム・フランク(キース・キャラダイン)にサインをねだる始末。空港内のレコードショップではビル(アラン・二コルズ)とメリー(クリスチナ・レインズ)がナッシュビルに自分たちのアルバムがあるかどうかをチェックしているかと思えば、バーバラを追い掛け回す若いGIグレン・ケリー(スコット・グレン)の姿もみられ……

スタッフ

監督・製作:ロバート・アルトマン
製作総指揮:ジェリー・ワイントローブ、マーティン・スターガー
脚色:ジョーン・テュークスベリー
撮影:ポール・ローマン
音楽編曲・監修:リチャード・バスキン 
音楽:キース・キャラダイン

キャスト

ヘンリー・ギブソン
リリー・トムリン
ロニー・ブレイクリー
グウェン・ウェルズ
シェリー・デュヴァル
キーナン・ウィン
バーバラ・ハリス
スコット・グレン
ロバート・ドクィ
エリオット・グールド
ティモシー・ブラウン
デヴィッド・ヘイワード
バート・レムゼン
ドナ・デントン
ジュリー・クリスティ
カレン・ブラック
アレン・ガーフィールド
バーバラ・バクスレー
ネッド・ビーティ
マイケル・マーフィ
ジェフ・ゴールドブラム
クリスティナ・レインズ
ジェラルディン・チャップリン
キース・キャラダイン

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