原題:Rabbit Hole

大きな岩のような悲しみはやがてポケットの小石に変わる

2010年/アメリカ/カラー/91分/ 配給:ロングライド

2011年11月5日よりTOHOシネマズシャンテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

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公開初日 2011/11/05

配給会社名 0389

解説


ピュリツァー賞に輝く傑作戯曲を
ニコール・キッドマンが心血を注いで映画化
 『ラビット・ホール』すなわち“ウサギの穴”と題されたこの映画は、女優として人気&実力共にハリウッドを代表するニコール・キッドマンが、初めてプロデューサーと主演を兼任したヒューマン・ドラマだ。トニー賞、ピュリツァー賞を受賞したデヴィッド・リンゼイ=アベアーの同名傑作戯曲に感銘を受けたキッドマンは、自ら映画化に向けて動き出し、原作者自身の脚色により念願の企画を実現。虚飾を一切そぎ落とし、ごく普通の女性の複雑にして起伏に富んだ感情を、このうえなく繊細かつリアルに表現したその演技は全米で絶賛され、彼女にとっては『めぐりあう時間たち』以来8年ぶりのアカデミー主演女優賞ノミネート作となった。
 郊外の美しい住宅街に暮らすベッカの日常は、8ヵ月前にすべてが変わった。4歳のひとり息子ダニーが、突然の交通事故でこの世を去ってしまったのだ。それ以来、ベッカは家の中のあちこちに残るダニーの面影に心かき乱され、他人との関わりを拒絶し、母親や妹に苛立ちをぶつけるようになった。夫のハウイーは失われた幸せな日々を少しでも取り戻そうと努めるが、ベッカとの溝は深まるばかり。そんな時ベッカはダニーの命を奪った車を運転していた高校生ジェイソンと交流を持つようになり、ハウイーは妻とは別の女性に心の安らぎを求めていく。もがけばもがくほど人生の迷路の深みにはまる夫婦は、どうすれば出口を見つけ、新たな一歩を踏み出せるのだろうか……。

悲しみは消えない。でもその悲しみを抱きながら、歩み出すことはできる
喪失からの再生を描いた上質な人間ドラマ
 “ウサギの穴”とは、ご存じルイス・キャロルの児童文学『不思議の国のアリス』の有名な設定からとられたもの。愛息を亡くしたことにより、それまでまったく想像しえなかった心の痛みに囚われた主人公ベッカ、そしてその夫のハウイーの境遇を、白ウサギを追いかけてワンダーランドに落っこちた少女アリスのシュールな体験になぞらえている。むろん『ラビット・ホール』には、ベッカを囃し立てる不思議の国の愉快な住人たちは登場せず、最愛の我が子がいなくなった冷たい現実のみが厳然と広がっている。ささくれ立ったベッカの振る舞いは家族など周囲の人々を傷つけ、そのことがいっそう彼女自身を袋小路に追い込んでいく。
 喪失からの再生というテーマを真摯に探求したこの物語は、「悲しみは必ず癒される」とは声高に叫ばず、「悲しみは癒えないかもしれない。それでも人は前に進むことができる」と、観る者にそっと語りかける。そんな本作の視点を反映しているのが、交通事故を起こした車の運転手である少年ジェイソンが描いたコミックをめぐるエピソード。くしくも『ラビット・ホール』という題名がついたその漫画は、並行宇宙(ルビ:パラレル・ワールド)をモチーフにした奇抜な内容だったが、不思議とベッカの頑なな心を解きほぐす。パラレル・ワールドとはSFジャンルでしばしば使われる“複数の現実”についての概念だが、この映画では悲しみに暮れるベッカに“別の人生”がありうることを気づかせるきっかけになっていく。まさしく絶望の中の希望のありかを人間の想像力、再生力の可能性に託し、映画的にヴィジュアル化した印象深いエピソードとなった。

実力派俳優たちの情感豊かなアンサンブルと
ジョン・キャメロン・ミッチェル監督の新境地
 華やかなフィルモグラフィに新たな代表作を刻み込んだニコール・キッドマンの入魂の演技はもちろん、夫のハウイーに扮したアーロン・エッカートの妙演も見逃せない。『サンキュー・スモーキング』の軽やかなセリフ回しで観る者を魅了し、『ダークナイト』のハービー・デント&トゥーフェイス役で世界中を驚かせた実力派男優が、すれ違いを繰り返しながらも決して断ち切られることのない夫婦の絆をエモーショナルに体現する。また『ハンナとその姉妹』『ブロードウェイと銃弾』で二度のアカデミー助演女優賞に輝く名女優ダイアン・ウィーストが、さすがと思わせる味わい深い存在感を発揮。喪失体験の悲しみがいつしか変わりゆくことを“ポケットの中の小石”に例えた言葉は、優しく慈愛に満ちた至言として観る者の胸に響くことだろう。
 そして人生や人間への深い洞察力が求められる本作のメガホンを執ったのは、センセーショナルなロック・ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』で鮮烈なデビューを飾り、9・11以降の愛とセックスの形を大胆に表現した『ショートバス』も話題になったジョン・キャメロン・ミッチェルである。これまでも登場人物の孤独や他者との結びつきを求める切実な感情を描いてきた個性派監督が、よりリアリティを重んじた新境地に挑み、成熟の域に迫った演出力を披露。都合のいい奇跡が舞い降りてきたようなハッピーエンドを避け、なおかつ確かにポジティブな余韻を残すラストシーンは、観る者の心に愛おしい温もりを届けるに違いない。

ストーリー




息子の痕跡をすぐにでも消したい妻。息子の痕跡をいつまでも留めたい夫。
幾度となくほつれかけても、決して断ち切られることのない夫婦の絆を描く。
ニューヨーク郊外。瀟洒な邸宅にクラスベッカ(キッドマン)とハウイー(エッカート)夫妻は、何不自由のない日常を送っているかに見える。
しかし二人は絶望の淵にいた。8ケ月前、息子のダニーは走る犬を追いかけて、開け放たれた門扉から飛び出し、交通事故に遭ったのだ。
ベッカは息子の面影から逃げ、ハウイーは息子との想い出に浸る。同じ悲しみを共有しながらも、二人の関係は少しずつほころび始める。そんなある日、ベッカは街で見覚えのある少年と遭遇する。彼はダニーの命を奪った車を運転していたジェイソンだった。ベッカは偶然を装い、ジェイソンの後を追うが・・・。

スタッフ

監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル
原作戯曲:デヴィッド・リンゼイ=アベアー
脚本:デヴィッド・リンゼイ=アベアー
撮影:フランク・G・デマルコ
音楽:アントン・サンコー

キャスト

ニコール・キッドマン
アーロン・エッカート
ダイアン・ウィースト
タミー・ブランチャード
マイルズ・テラー
ジャンカルロ・エスポジート
ジョン・テニー
サンドラ・オー

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