2009/日本映画/DV/16:9/カラー/119分 配給: SPOTTED PRODUCTIONS

2009年7月11日よりポレポレ東中野にて奇跡のレイトショー

公開初日 2009/07/11

配給会社名 0783

解説

2006年夏に企画書を作ってから3年が経った。
始まりは韓国産エロ映画「東京の人妻 純子」。韓国人が一生懸命日本語を喋って演技をする様に笑っちゃいけないと思いながらも、お腹が痛くなるほど爆笑したのだが、由美香さんは「いつものように」演技を続けていた。「スキナンダロ!」と絶叫する夫に抱かれ、「ジュンコチャン」と微笑む水道局員にキスをし、恋人との別れ際では本気で涙を流していた。
間違った日本描写も含めてトンデモな内容だけど、決して手を抜かない由美香さんが映っていた。僕は「16年間こうして仕事を続けて来たんだろうな」と思った。そして一本でも由美香さんの作品を見たことがある人なら、きっと同意してくれるはず。

学生時代、由美香さんに自作を見てもらい、言われた言葉は「松江君、まだまだね」だった。内容がヘボっちいことは当時も分かっていたけど、心にグサッと来た。「あの」林由美香さんに出てもらいながらもこんな程度の作品しか残せなかった自分が悔しかった。と同時に「いつかちゃんと」と心に誓った。
それから何度かイベントで一緒になったり、お酒を飲んだり、「オロオロしないの」と怒られたり、「たまもの」の予告編を作ったことで「ありがとね」と言われるようなお付き合いがあったけど、僕の中では「まだまだ」がずっと残っていた。

そんなことをグダグダ思っている間に由美香さんはあっちの世界へ行ってしまった。僕にとって初めての身近な人の死、だった。
そして「もう由美香さんとは作品が作れない」と分かり、悔しくなった。なんでもっと早く由美香さんに「見て下さい」と渡せるような作品を撮れなかったのか、「出て下さい」と言えるような企画を思いつけなかったのか、結局、僕は由美香さんにとって「まだまだ」のままじゃないか。

「純子」と出会ったのは、亡くなって一年が過ぎた頃だった。僕は大笑いしながら「なんで由美香さんはこの作品に出たんだろう」と思った。「誰が作ったんだろう」とも思った。そして「これらの疑問を由美香さんへの返答にしたい」と。

一本のVHSテープを何度も見返し、情報を集めようとしたものの、7年前に作られた韓国のエロ映画について分かりっこない。僕は「こうだったんじゃないか」と妄想した台本を作ったものの、現実が「そんなもんじゃない」と頭を叩く。きっと由美香さんは「余計なことバラすんじゃないよ」と怒っていることだろう。台本を捨てた。書いてくれた向井君に謝った。彼は「仕方ないよ」と言ってくれた。とにかく記録することから始めた。僕に出来ることはカメラを回すことだけ。演出をする余裕なんてない。7年前のことを思い出してくれた「純子」の出演者たちからは「何でいまさら」と笑われたが、それぞれの人生に「純子」は痕を残していた。ウソみたいなホントの数々に「まるで由美香さんみたいだな」と思った。ウソとホントがどっちでも良くなって、ただセキララに生きる、そんな現実。「まだまだね」と言うからにはそれなりの深みがあったのだ。

最初のインタビューを撮ってから丸2年が過ぎ、沖縄で「やっと撮り切れた」と思ったものの、僕と由美香さんの距離感が見えず、編集が進められなかった。これまでの由美香さんの作品にあった共犯関係が結べていないような気がした。そこが抜けたまま作品を完成させていいものか、と悩んだ。つまり、作品を語るべき主語が見つからなかった。
そんなことをまたもグダグダと思っている間に肉親や友人が由美香さんのいる世界へ行ってしまった。
もう、考えるのはやめた。
素材をもう一度見返す。「誰かが記憶している限り、人は亡くならない」「映画は麻薬だから」「誤摩化すような真似するなよ」という言葉に後押しされた。その時、ふと「由美香さんからいっぱい、ステキな人を紹介してもらえたな」と思った。僕が感じた出会いと発見とハラハラドキドキを隠さずに繋げばよかったのだ。

本編中の平野さんの言葉を借りると、僕は「あんにょん由美香」に「これまでの技術を全部ぶち込んだ」。
映画で生きると決めて10年間、全ての技術を。ドキュメンタリーという手法で現実を演出し、ドラマを作り、観客と共犯関係を結ぶ、それが僕にとっての映画作り。
しかし、技術はあくまでも技術でしかない。作品を観客に届け、動かすのは「想い」だ。
僕は「あんにょん由美香」でそのことを強く実感した。映画のラスト、出会うはずのない人たちが出会い、新たな物語を作った時、由美香さんにまた会えた。ウソじゃない。そこに由美香さんはいなかったけど、彼女を想う人たちが集まったことで、カタチになった。

「想い」は現実を創るのだ。

ストーリー

スタッフ

演出・構成:松江哲明
編集:松江哲明、豊里洋
構成協力:向井康介
音楽:豊田道倫
挿入曲
『ほんとうのはなし』(唄:川本真琴)
『さよならと言えなかった』(唄:豊田道倫)
プロデューサー:直井卓俊
撮影:松江哲明、近藤龍人、柳田友貴
制作・配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
配給協力:インターフィルム
製作:『あんにょん由美香』フィルムパートナーズ

キャスト

林由美香
ユ・ジンソン
入江浩治
キム・ウォンボギ
カンパニー松尾
いまおかしんじ
平野勝之
柳下毅一郎
中野貴雄
野平俊水
華沢レモン
柳田友貴

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