マルタのやさしい刺繍

夫に先立たれもう9ヶ月も経とうとしているのに、夫が他界してから、悲しみを心の中に隠し、ずっと小さな村で生きてきた８０歳のマルタは、友だちのリジィ、フリーダ、ハンニと日曜日に教会へお祈りにくのも止めてしまった。そんなマルタを心配した友人たちが、マルタに何かさせて元気づけようと考えていたところ、マルタが昔、縫製をしていたことを知り、やぶけてしまった合唱団の旗を直すように仕事を依頼する。マルタはベルンの布屋さんに友だちと一緒に修正用の布地を買いに行き、そこで昔の叶えなられなかった夢を思い出す。それは、シャンゼリーゼに自分でデザインして作った“ランジェリー・ショップをオープンさせるということ”だった。

村の牧師でマルタの息子であるヴァルターの知らないうちに、マルタはこの仕事で生きる力を再び取り戻し、ランジェリー・ショップを作るために彼女の雑貨店を一掃し始める。手伝うのは「アメリカに住んでいた」というウソを長年自分自身が「真実」と思い込んでいたリジィ、老人ホームにいるフリーダ、体の不自由になった夫を息子が老人ホームに追いやられそうになっているハンニだ。

ある日、合唱旗の修理を取りにフリッツがやってきた。すっかり旗のことを忘れていたマルタはリジィと一緒に新しい合唱旗を作り上げたのであったが、その奇抜なデザインを許せなかった保守派な政党のフリッツは、彼女の店が村の笑いものになってしまうと考える。マルタ達が暮らすのは、スイスの伝統的な小さな村。人々は毎週日曜日、教会に通いきちんと牧師さまのお説教を聞くのを欠かさない。そんな村で、セクシー下着のことは話題になり、マルタの息子であるヴァルターは皆から笑いものにされ、母のマルタに、店を立ち退くように最終通告をする。ヴァルターは店のスペースを教会の“聖書を読む会”に使いたかったのだ。マルタが立ち退きを拒否すると、ヴァルターは商品をごっそりゴミ箱に捨ててしまったのであった・・・。

マルタがこの新しい人生の希望に喜びを感じていることを知った、ハンニとフリーダもマルタを手伝うことに決めた。ハンニは、旦那と息子から離れ、トランクに荷物を詰めてマルタのところへ越してきた。ハンニは運転免許証を取るために教習所へ通い、フリーダはルースリさんと老人ホームのコンピューター教室に通い始める。村にはランジェリー・ショップの顧客がいなかったので、フリーダはインターネットに広告を載せることにした。するとすぐに注文が舞い込んできたのであった…。夢を諦めないマルタと、そんな彼女をサポートする友人たち。次第にマルタの夢の輪が村に拡がってゆく。