2007/カラー/97分 配給:いせFILM

2009年7月11日〜7月24日まで、下北沢トリウッドにてロードショー 2007年9月15日、ポレポレ東中野にてロードショー

公開初日 2009/07/11

公開終了日 2009/07/24

配給会社名 0544

解説


中国の歌をうたってみてもらえませんか。そんな私の投げかけに、栗原貞子さん(81歳)は少し考え、この一節をうたってくれました。
 しんと静まり返った薄暗い部屋。夏の初めの、夕暮れ時でした。風鈴が、微かに風に揺れていて、時折、子どもの声が聴こえてきます。部屋には栗原さんと白い猫、そして、ただそこにいるだけの私。風に当たりながら遠く窓の外を眺める老婦人の視線の先に、一体何が見えているのか。私にはわかりません。その口から語られる記憶のかけらに、そっと耳を傾け、寄り添うことしか、私にはできません。

 中国残留婦人として生きることを余儀なくされた栗原貞子さんの胸に残ったのは、一曲の歌。生活に追われ、何かを楽しむ余裕などありませんでした。
「他には何も覚えていない」と言ったそのひとことが、中国での生活の過酷さを物語っています。
忘れ去られようとしている記憶。
しかし、忘れてはならない記憶。
今、栗原さんの記憶は、映画となって私たちに引き継がれます。
この作品は、それを受け継ぐ私の、
そして、私たちの物語でもあるのです。

主人公・栗原貞子さんとの出会い

栗原さんとの出会いは今から4年程前。日本へ帰国した、かつての中国残留婦人の方々が集まる新年会の席でした。「新年経験交流会」と呼ばれるその会は、毎年1名が代表して自分の体験を発表します。その年の代表は栗原さんでした。やがて栗原さんは壇上に上がり、ゆっくりと自分の経験を語り始めました。その 
穏やかな佇まいからは想像もできない、過酷な体験。私は今までに聞いたこともない、悲惨な歴史を知ることになったのです。たった60年前、異国の地でこんなにも辛い体験をした女性たちがいた—
同じ日本人として、女性として、その事実に私は衝撃を受け、また、今まで知らなかったということに愕然としました。  
「知りたい」。
 なぜ、こんなことが起きたのか。
なぜ、多くの女性たちが見棄てられなければならなかったのか。
 
 栗原さんは今、東京・江東区の都営アパートで、ひとり暮らしています。近所に住む孫たちが、時折顔を見せるのを楽しみに暮らす、ごく普通の老婦人です。気の向くままに眠り、絵を描き、愛猫と戯れる。「今が一番しあわせだな」栗原さんはつぶやきます。「でもね、一生忘れられないことがある。その思いは、墓まで持っていくよ」

陽も昇らない薄暗い朝に、そして、寝つけずにいる真夜中の暗闇に、いつも思い出すのは、死んでいった仲間たち、そして子どもたち。「生きれるまでは生きようね」という言葉を最後に亡くなった友の亡骸は、その行方すらわからぬまま、今も中国の大地に眠っています。
「私たちは、なぜ、国に棄てられたのか。」問うても、返事はありません。
 その小さな声が消えてしまう前に・・・
 栗原さんと私の、遠い記憶への旅が始まりました。

ストーリー



物語は、主人公である栗原貞子さんの記憶を軸に進行します。
その構成は、ある中国残留婦人の一代記を読み進むような流れとなっています。

■プロローグ「ある中国残留婦人」
物語の始まり。舞台はあるアパートの片隅。中国語の歌をうたう主人公・栗原貞子さんの歌声が聴こえてきます。作品全体の雰囲気を印象づけるシーン。

■第一章「満州への旅立ち」
軍国少女であった栗原さんが 満州へ行くことになった経緯、そしてなぜ帰ってくることが出来なかったのか。当時の時代背景を交えて構成します。

■第二章「逃避行—満州開拓民の悲劇—」
満州開拓民の悲惨な逃避行の様子と、栗原さんが辿った運命。栗原さんの証言から、生々しい歴史の事実が語られます。
■第三章「悲しみの子どもたち」
戦争の声なき犠牲者は子どもたちです。栗原さんやかつての仲間たちの証言から、
悲劇の本質が浮き彫りなっていきます。

■第四章「日本人収容所」
北の大地の粗末な収容所で、多くの日本人が亡くなりました。棄民となった女性たちがどのような状況で中国残留婦人となっていったかが語られます。

■第五章「出会い」
行き場を失った栗原さんは、生きるため、そしてお腹の子どもを守るために中国人の男性と結婚します。その男性との出逢いによって、戦争で傷ついた心は人間性を回復し、栗原さんは新たな人生を歩み始めます。

■第六章「中国での日々」
内戦、飢饉、文化大革命・・・激動の中国で、残留日本人たちがどのような戦後を送ってきたのか。もうひとつの日本人の歴史がここにあります。

■第七章「帰国」
日中国交回復後、帰国への道が開かれますが困難は終わりません。引揚げ帰国した人々を待ち受けていたのは、新たな貧困、偏見、差別との葛藤。

■第八章「家族」
どんな苦労があっても、家族が共に暮らすことが人間を支える。幸せとは何かを、栗原さんは身をもって体現します。

■エピローグ「花の夢」
栗原さんは静かに語り終えます。最後に蘇る、ある光景・・・戦争に屈せず、命をつないで生き抜いた女性たちの強さと美しさが、観る人の胸に余韻として残ります。

スタッフ

監督・撮影・編集:東志津 
プロデューサー:伊勢真一
語り:余貴美子
撮影協力:石倉隆二
音響構成:渡辺丈彦
音楽:横内丙
録音協力:米山靖
宣伝デザイン:ジオングラフィック
題字・画:山福朱実

キャスト

栗原貞子

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