原題:剃頭匠 / The Old Barber

2006年/中国/カラー/105分/ 配給:アニープラネット

2009年01月07日よりDVDリリース 2008年2月9日、岩波ホールにてロードショー

公開初日 2008/02/09

配給会社名 0406

解説


93歳の現役理髪師、チン爺さん
こつこつと働き続けて81年 その静かな存在感が私たちの胸を打つ

 近年、多様化を誇る中国映画界が、万人の心をうつ感動のヒューマン・ドラマを贈りだした。それが『胡同の理髪師』である。
 中国・北京の旧城内を中心にそこかしこにある細い路地、胡同(フートン)には、伝統的な建築様式で作られた庶民の古い屋屋が立ち並ぶ。生活感に溢れ、古き良き都の情緒漂うスポットとして知られているが、オリンピックを控え、昔ながらの街並みは、そこに住む人に細やかな人情とともに姿を消そうとしている。
 『胡同の理髪師』は、そうした時代の流れのなかで、胡同の一角に暮らす93歳の理髪師の毎日をドキュメンタリータッチで描き、「豊かに生きる」ことの意味を私たちに問いかけている。

 近代化の波が押し寄せる北京の街で、人々の観念や価値観も変化している。主人公のチン爺さんの顧客は、胡同に住む病気がちの老人ばかり。ひとり寂しく亡くなっていった人、郊外に住む息子と無理やり同居させられた人など。胡同で生活する人々にもいろいろな変化が押し寄せるが、チン爺さんの日常生活のリズムは全く変わらない。

 12歳から見習いとして働き始め、今なお現役の93歳の理髪師だ。そのチン爺さんの毎日は、朝6時に起き、毎日5分送れるゼンマイ時計を直し、白髪にクシを入れ、身だしなみを整えることから始まる。午前中は三輪自転車で、古くからの顧客の家を訪問しては散髪する。午後は近所の人たちとマージャンを楽しみながら世間話をする。そして決まって夜9時には床に就く。映画のほとんどのシーンがチン爺さんの実生活を映し出している。そして、実在する胡同の生活風景をゆったりとしたリズムで繊細にまた静かに描いている。老境に入ることの寂しさも抱きながら、凛として自分の生き方を護ろうとするチン爺さんの姿は、高齢化が進む日本でも共感を持って迎えられるに違いない。

 監督を務めるのはハスチョロー。内モンゴル出身の逸材で、数多くのテレビシリーズを経て、2000年に長編第1作『草原の女』を発表して以来、『秘境モォトゥオへ…』などで、そのドキュメンタリータッチの語り口と瑞々しい映像感性が高く評価されている。ここでは古都・北京特有の文化、風土、人情をあぶり出しながら、新しい波が古いものを駆逐していく様を、諦観と痛みを持って描いている。なによりの話題は、主人公にチン爺さんを演じるのに、実際に理髪師である93年のチン・クイを据えたことだろう。まさに本人そのままの生活がドラマをかたちづくっているのだ。監督いわく?世界最年長のアマチュア俳優”だが、映画のリアルティの軸となり、その豊かな人間性を画面に焼き付けている。

 この他、演者のほとんどが胡同の老人ホームや長屋で見出した人々。チャオ老人の隣のおばさんは、解雇されたトロリーバスの女性運転主。ミー老人を演じているのは読み書きのできない83歳の独居老人だった。みなそれぞれのキャラクターを活き活きと演じている。これもハスチョローが胡同の生活を真摯に描こうとする想いの表れである。

ストーリー




 北京の胡同の古い家に、93歳のチン爺さんはひとりで暮らしている。
窓から朝日の差し込む6時には目覚め、入れ歯をはめ、鏡の前で白髪にクシを入れる。今朝は、毎日きっちり5分ずつ遅れる時計を修理に出そうと思い立った。毎晩、丁寧に時計のねじを回すのだが、朝になると必ず遅れているので、5分だけ針を進めるのが朝の日課となってしまった。だが、時計店の店主は?動くうちは毎日直せばいい。止まってしまったら分解してみましょう”としか言わず、最新式の電子時計を勧めるだけ。この態度にあきれたチン爺さんは、何も言わずに店を出てしまう。
 80年以上のキャリアを誇る現役理髪師のチン爺さんは、顔から耳、襟首、さらには鼻毛まで処理する鮮やかなカミソリさばきで常連客からの信頼を集めている。そんな常連客が倒れたと聞けば道具を抱えて三輪自転車で出張サービスを実行する。ベッドにほぼ寝たきりだった馴染み客も、チン爺さんの調髪と顔剃りの技に心から感謝を寄せる。なかには感謝の気持ちも込めて料金を多めに払おうとする者もいるが、彼は固辞して規定金額しか受け取らない。
 寝たきりでテレビばかりみているミー老人には、頭の体操になるからと麻雀のススメを説いて帰るのだった。彼が店を構える地区にも再開発の波が押し寄せ、庶民の伝統的な集合住宅ともいえる四合院が面する路地、胡同(フートン)は順次取り壊しの対象となっている。チン爺さんの住む胡同にも役所の人間が押し寄せ、測量の末に取り壊しのマークを記していった。チン爺さんは「どうせなら一気に壊せ」と見得を切るが、心の中では「解体なんて口だけだ」とタカをくくっている。息子には「実際に壊される頃にはわたしは火葬場の煙になっている」ともうそぶく。その息子は失業中のうえいまだに借家暮らし。しかも長男の嫁が妊娠、孫が生まれるというのに、自分の薬代にも事欠く状態だと愚痴をこぼす。
 胡同住まいで寝たきりの顧客、チャオ老人には世話を焼いてくれる隣人がいた。郊外に住む息子はめったに顔を出さないので、チャオ老人は自分がなくなったら家もこの隣人に譲ると宣言する。死を意識したチャオ老人に、チン爺さんは指圧を施すのだった。
 そんななかミー老人が誰にも知られずに孤独死をとげ、それをチン爺さんが発見。ミー老人の飼っていた黒猫を連れて帰り、世話をするチン爺さんの心に?死ぬこと”が頭をよぎるようになるが、追い討ちをかけるように、チャオ老人が息子夫婦に強引に引き取られ、やがて死を迎える。ことここに至って、チン爺さんはやがて来る日に備えて、黙々と準備を始める−。

スタッフ

監督:ハスチョロー

キャスト

チン・クイ
チャン・ヤオシン

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