原題:ONCE

アイルランド発ミュージック・ラブストーリー

2007年サンダンス映画祭観客賞受賞 第80回アカデミー賞主題歌賞ノミネート

2006年/アイルランド/カラー/85分/ 配給:ショウゲート

2008年05月23日よりDVDリリース 2007年11月3日(土・祝)、渋谷シネ・アミューズ他全国順次ロードショー!

公開初日 2007/11/03

配給会社名 0008

解説


ONCE、たった一度の出会い。ある日、ある時、ダブリンの街角で…。男と女は、恋か友情か、心の通じる相手を見つけた。男は穴の空いたギターを抱え、街角に立つストリート・ミュージシャン。女は楽器店でピアノを弾くのを楽しみにするチェコからの移民。そんな一見、なんの接点もない二人を、音楽が結びつける。言葉にできないもどかしさを音楽にのせ、一緒に演奏する喜びを見つけた二人のメロディは重なり、心地よいハーモニーを奏でる。そんなどこの街角でも起こりえる普遍的な出会いが、静かに動き始める。

運命というには大げさだが、偶然と呼ぶには大切すぎる“小さな奇跡”が、イギリスの日蔭で脈々と伝統を受け継いできた音楽と詩情の国、アイルランドから届いた。にわかに経済が活気づき、刻々とコスモポリタンな都市へと変貌する首都ダブリンで、地元のストリート・ミュージシャンと移民の若い女との間に生まれる、音楽を通した普遍的なラブ・ストーリーは、全米でわずか2館の公開から、観客の口コミで、140館まで上映館を増やし、一館あたりの観客動員数において『パイレーツ・オブ・カリビアン/ ワールド・エンド』などの大作をしのぐ大躍進を見せた。“言葉”では照れくさくなる感情表現も“音楽”にのせることでより自然に心に響く。実った恋、実らなかった恋、現在進行形の恋、かつての淡い思い出、男と女の友情など、誰もが一度は経験しながら、どこか理解できずにいる微妙な心の動きが丁寧に描かれ、男と女の恋愛タイミングのズレや鼓動がリアルに伝わってくる。

 音楽を愛する者たちが作り出した奇跡のコラボレーション・・・この作品のキーとなる二人は、国内チャートで1位を獲得するアイルランドの実力派バンド、ザ・フレイムス(THE FRAMES)のフロントマン、グレン・ハンサードと、彼が実際にプラハのツアー中に出会い、自身のソロ・アルバムでも共作・共演したチェコのマルケタ・イルグロヴァだ。グレンはすでに『ザ・コミットメンツ』で演技経験があるが、本作では初の主演を務め、二人が実際にプロのミュージシャンであるバックグラウンドを生かして、その時の気持ちをリアルに詞や歌に乗せ、スクリーンに投影させた。そんなシンプルなラブストーリーを、ヴィジュアル・アルバムを作るような感覚で真摯に描いたのは、映画監督であり、ザ・フレイムスの元ベーシストという音楽家として実績のあるジョン・カーニー。音楽と恋愛いう究極のナマモノを、決してやりすぎることなく、誰もが感情移入できるニュートラル・ゾーンを維持することに成功。そして音楽という、どんな台詞よりも雄弁に感情を表現する手法に着目したこの映画で、本国ばかりか、見事サンダンス映画祭でもワールド・シネマ観客賞を受賞。ザ・フレイムスも、この夏、ボブ・ディランのオセアニア・ツアーに参加するなど、更なるブレイクが期待されている。

ハリウッド・ミュージカルの「人が唐突に歌い、踊り出す」不自然さに違和感を覚える人も少なくないが、この映画ではCDから流れるメロディ、作曲やレコーディングを通して聴こえる音楽が、主人公たちの感情を代弁するという、最もシンプルで自然な音楽の使い方をしている。かつては言葉を奪われる歴史を経験し、歌に哀愁や恋慕をのせて口から口へ伝えゆく伝統が色濃く残るアイルランドらしく、歌に感情をのせることで、心にダイレクトに響く。現に、歌はアイルランド文化に欠かせない要素で、劇中に登場する酒場で見知らぬ者同士が集い、それぞれの歌を披露する。そして主人公がストリートで見つけるバック・バンドは「(アイルランドの牧歌性をハード・ロックに持ち込んだ)シン・リジーの曲しかやらない」というなど、全ての国民がミュージシャンであるとさえ言える音楽史の豊かさが垣間見られる。

 いつか大切な人に出逢う…。そんなほのかな期待は誰の心にもあるもの。とまどいつつ、二人の中で生まれる感情は、初めて手を触れる時のもどかしさ、キスする時の一瞬の迷いなど、小さな瞬間にも共有できる。そして友情と恋愛の狭間で生まれる気持ちは、一緒に音を積み上げ、ハーモニーを生み出す時の感覚とよく似ている。相手の音に反応し、来るべき瞬間に、タイミングよく踏み出す。きっと映画を見終わった後に、隣の人と話したくなり、ほんの少しやさしい気持ちになっている自分に気づくはず。今の想い、これからの出逢いに想いをめぐらすきっかけになるかもしれない。
ONCE、ある日、ある時、どこかの街角で、これから出会い、始まるかもしれない物語のために…。

ストーリー



ダブリンの街角。ストリート・ミュージシャンで賑わうグラフトン・ストリートで、毎日のように、オンボロのギターをかき鳴らす男。誰もが知るヒット曲を弾いている。
<何か言いたいのなら、いま言ってくれ!「SAY IT TO ME NOW」>
だが夜は打って変わり、心のうち中を叫ぶように自分の書いた曲を歌う男の前に足を止める者はいない。そこへ雑誌や花を売っている女が現れ、10セント硬貨を出す。少ないチップに皮肉をいうが彼女には通じない。「お金のため?誰のための歌?恋人はいないの?」女の執拗な質問を疎ましく思いながら、翌日に掃除機の修理を約束させられる。それは彼の昼間の仕事だ。彼は自分の部屋で一人曲を作る。別れたカノジョを想いながら・・・。
<君にフラれて、ボロボロさ「ALL THE WAY DOWN」>
翌日、人混みに応えるように演奏する男の前に、壊れた掃除機を引きずって女が現れる。彼は再会に驚きながら、その強引さに押され、彼女がピアノを弾かせてもらうという楽器店に立ち寄る。彼女のピアノの腕を確信した彼は自分が書いた曲を一緒に演奏してみないかと持ち掛ける。
<沈みそうな船で家を目指そう、まだ時間はあるから「FALLING SLOWLY」>
二人のセッションは予想を遥かに上回り、美しいハーモーニーを生み出した。彼はその演奏に喜びを覚え、彼女に惹かれていく。一緒に暮らす父親に彼女の掃除機の修理を頼み、子供部屋のような自室に招き入れると、寂しさに駆られ、男は短絡的な誘いを口にする。「泊まっていかないか」と。当然、彼女は面くらい、家に帰ってしまう。彼は一人部屋に残される。

翌日、男は街で花を売り歩く女を見つけ声をかけるが、女の態度はそっけない。彼は必死に昨夜のことを謝り、自分の曲が入ったCDとプレイヤーを渡す。そして強引に彼女を家まで送ると、意外にも家にあがらないかと彼女に誘われる。だがついて行くと、母親と幼い娘を紹介され、彼はシビアな移民の共同生活を目のあたりにする。だが彼は食事の後で、自分の曲に詞を付けてみないかと提案する。働くばかりの生活から、束の間、彼女も喜んで心に抱えていた想いを詞にこめる。
<もうずいぶんあなたと会っていない。顔も思い出せない「IF YOU WANT ME」>

彼女は家政婦の仕事に追われ、彼も掃除機の修理と父親の世話をし、別れたカノジョのビデオを見ながら曲を作る。彼はまだ過去に生きている。
<もう少しゆっくり変わってくれたら、君の嘘がぼくにも分かったのに「LIES」>
トライアンフのヴィンテージ・バイクを父親に無断で拝借した彼は、彼女をダブリン郊外の海岸線まで出かけようと誘う。楽しい息抜きに心を和ませ、彼女もようやく心を開き、二人は恋人のようにじゃれあう。彼女が、故郷に夫はいるが、全く会っていないと告白すると、彼を愛してるの?と男は覚えたてのチェコ語で聞く。彼女はチェコ語で答える。だがその笑顔が意味するところは分からない。
<マンネリから抜けられない、自分を変えてみたい「TRYING TO PULL MYSELF AWAY」>
男はストリートでいつものように花を売る女を見つけ、これからロンドンへ渡る決心を告げる。週明けに出発することに、彼女は寂しそうな表情を見せるが、彼は最後の週末を一緒に数曲レコーディングしたいと提案する。一転、彼女は積極的にスタジオと交渉し、面接用のスーツを見繕い、ミュージシャン志望だった銀行のローン担当者との交渉も繋げ、男は彼女の行動力に驚かされる。そして「シン・リジーの曲しかやらない」というストリート・バンドにも参加を呼びかけ、あとは本番を迎えるのみとなった。二人はアイルランドの伝統を担う、次々と客が歌を披露する酒場へ出かけ、距離を縮める。
<君が本気で決めたのなら、考え直す必要はない「WHEN YOUR MINDS MADE UP」>
レコーディング当日、冷めたエンジニアの予想と裏腹に、タイトな演奏と完成された曲に好反応を示し、録音は順調に進んでいく。
だが休憩の間、ピアノのある暗いスタジオで女は書きかけの曲を男の前で弾き、突然泣き崩れる。彼女は一人で家族を養っていたのだが、寂しさゆえ男の優しさに心が揺らぎ始めていた・・・。
<私が賢い女なら、あんな過ちはしなかったのに「THE HILL」>
一緒にロンドンへ行こうと彼は誘う。一緒に音楽をやろう。だが、お母さんを連れて行っていい?という彼女の一言で、二人の間に沈黙が訪れる。
それでもレコーディングは無事終了し、車のスピーカーで聴いてみようと、みんなで浜辺まで出かける。彼らも時間から解き放たれ、子供のようにはしゃぐ。だが終わりの時は近づいていた。街に戻った二人は向き合い、彼女も完成したCDを受け取る。彼は翌朝ロンドンへ発つ。名残り惜しそうに、彼はもう一度会おうと家に誘う。彼女も惹かれていることを認めながら、その後の展開を想像し、無意味だと諭す。それでも後で会うことを約束し、二人は別れる。振り返り、視線を合わせ、微笑む二人。その後、二人は別々の道を歩んでいくのか。あるいは一時の別れになるのか。二人が出会った街角でメロディだけが流れていた・・・。

スタッフ

監督・脚本:ジョン・カーニー

キャスト

グレン・ハンサード
マルケタ・イルグロヴァ

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