原題:The Real Life of Angel Deverell

フランソワ・オゾン監督が仕掛ける、 究極の女の夢

2007/03/14

2007年/ベルギー=イギリス=フランス合作/英語/119分/カラー/ヴィスタサイズ/DTS/字幕:松浦美奈/提供:ショウゲート/後援:フランス大使館 文化部/ユニフランス東京 配給:ショウゲート

2008年07月02日よりDVDリリース 2007年12月8日(土)、 日比谷シャンテ シネ、新宿武蔵野館他にて全国ロードショー!

(C) 2006 - Fid?lit? Films - Headforce 2 - Scope Pictures - FOZ - Virtual films - Wild Bunch - France 2 Cin?ma

公開初日 2007/12/08

配給会社名 0008

解説


『8人の女たち』『スイミング・プール』のフランソワ・オゾンが仕掛ける、究極の女の夢
現代最高の女性映画の名手、
フランソワ・オゾンの新たな挑戦

フランス映画界を代表する女優たちが大輪の花束のように個性を競い合う『8人の女たち』や、知性派の熟女シャーロット・ランプリングと若き肉体派リュディヴィーヌ・サニエが刺激的な協奏曲を奏でる『スイミング・プール』など、女性を主人公にしたお洒落でゴージャスなルックスの作品で、世界中の映画ファンを魅了してきたフランソワ・オゾン監督。女性の美しさや強さといったポジティブな面ばかりではなく、脆さ、恐ろしさ、身勝手さといったネガティブな部分までもチャーミングに描く手腕に長けた彼は、ペドロ・アルモドバルやソフィア・コッポラと並ぶ現代最高の女性映画の作り手のひとりだ。
 そのオゾンが、製作費25億円をかけて、英国の女流作家エリザベス・テイラーの埋もれた名作小説の映画化に挑戦。1900年代初頭のイギリスを舞台に、憧れのセレブの座を手に入れた女流作家の栄光と凋落の人生の物語を、30〜50年代のハリウッド映画にオマージュを捧げた艶やかなテクニカラー調のヴィジュアルにのせて、スペクタクルに描いた大作ドラマを完成させた。

名声、富、愛。すべてを自力で勝ち取ったヒロインの
行く手に待ち受けているものは?

 ヒロインは、エンジェルという名の少女。田舎町で小さな食料品店を営む母親と店の2階に暮らす彼女は、幼いころから上流階級の生活に強烈な憧れを抱き、近くにある豪邸〈パラダイス〉に住むことを夢見ていた。やがて、彼女は自らの憧れを小説として書き綴ることで、本当に夢に見た人生を手に入れる。作家としての名声、〈パラダイス〉での贅沢な暮らし、そして、上流階級出身の画家との結婚。望むものすべてを手にしたエンジェルの幸福な日々は永遠に続くかに見えたのだが……。
 作家デビューのときからキャリアをコントロールし、ペン1本で稼いだ金で豪邸を買い、好意を抱いた男性に自分からプロポーズする。まるで現代女性のように、人生の主導権を握った生き方を貫くエンジェル。強く願えば夢は叶うと信じる彼女にとって、現実を書き換える自分の嘘は、夢の実現と同一線上にあった。しかし、夢の実現に向かってまっしぐらに突き進む彼女は、自立した強い女性の代表のように見えるが、そのいっぽうで、苛酷な現実と向き合うことができず、自身が作り上げたファンタジーの世界に逃避してしまう弱さも持っている。そんなエンジェルの「複雑性を探求してみたかった」と語るオゾン監督。今回、初めて全編英語のドラマに挑んだ彼は、きらびやかなセレブとして愛と波瀾の道を歩んできたヒロインが、晩年に経験する〈人生のどんでん返し〉を、独特の毒を含むタッチで描写。女性という存在のたくましさと哀しさを、見る者の心に深く焼き付けていく。

黄金時代のハリウッド映画を彷彿させる、
贅沢で豪華なヴィジュアル

 ヴィクトリア朝のロマンス小説を執筆するエンジェルの懐古趣味的な世界観と呼応するように、美術、照明、色彩などのヴィジュアルは、ダグラス・サークの監督作に代表されるハリウッド黄金時代の女性映画を参考に、こだわりぬいて設計されている。とりわけ目を見張るのが、30着にのぼるエンジェルの衣装だ。デザインを手がけたのは、『8人の女たち』をはじめ9作でオゾンと組んでいるパスカリーヌ・シャヴァンヌ。シルク、ベルベット、レース、サテンなどを贅沢に使ったエンジェルのドレスの何点かは、映画の背景となる当時の素材をそのまま使用。エンジェルなら当然そうしただろうと思われるとおり、仕立てはパリの仕立屋の手に委ねられた。

ヒロインを演じるのは、オゾンの新しいミューズ、
ロモーラ・ガライ

 激しく、愛らしく、切ない情感をこめてヒロインのエンジェルを熱演するのは、リュディヴィーヌ・サニエに代わるオゾンの新しいミューズであり、ケネス・ブラナーやウディ・アレンの監督作でも脚光を浴びているロモーラ・ガライ。以前からオゾン監督の大ファンだったという彼女は、16歳から44歳にいたるまで多様に変化していくエンジェルの〈女の一生〉を、メイクの力を借りることなく力演。「決して飽きることなく、愚痴ることもなく、熱い心を保ち続けた」と、オゾンを感嘆させた。
 脇を固めるキャストも魅力あふれる。エンジェルを発掘する出版社の発行人に扮するのは、『ピアノ・レッスン』のサム・ニール。エンジェルに対する感情を軽蔑から畏敬へと変化させていく発行人の妻を演じるのは、『まぼろし』と『スイミング・プール』に続いてオゾンとコラボレーションを組むシャーロット・ランプリング。エンジェルを崇拝して仕える個人秘書のノラには、エリック・ロメール監督の『グレースと公爵』で高い評価を得たルーシー・ラッセル。さらに、ノラの弟で、エンジェルの夫となる画家のエスメには、『300〈スリーハンドレッド〉』でステリオスを演じたマイケル・ファスベンダーが起用され、前作とは異なる影のある魅力を光らせている。物事の本質を捉えた絵を描き、誰にも理解されない孤高の芸術家の道を歩むエスメと、現実逃避のロマンス小説を書いて大衆の人気を得るエンジェル。2人の資質の違いを通して、〈前衛芸術〉と〈商業芸術〉に関する考察がなされている点も、オゾン監督作らしいインテリジェントな見どころだ。

ストーリー



生まれも、キャリアも、恋さえも──最高の人生を自分で書いた女
作家としての成功だけをひたすら夢見た少女期

 1900年代初頭のイギリス。16歳のエンジェル・デヴェレル(ロモーラ・ガライ)にとって、人生はままならないものだった。私は、由緒正しい貴族の娘として生まれているはずだった。そう信じる彼女は、たくさんの使用人に囲まれ、美しいドレスをまとい、優雅にハープを奏でる自分の姿をたやすく想像することができた。しかし、現実のエンジェルは、ノーリーの下町で、亡き父が遺した食料品店を経営する母と共に、細々と暮らしている下層中流階級の少女にすぎないのだ。幼いころから、彼女は、近くの豪邸〈パラダイス〉で暮らすことを夢見てきたが、実際に伯母から持ち込まれたのは、豪邸〈パラダイス〉の使用人になる話だった。そんなエンジェルが、唯一思い通りの人生を生きられる場所──それは、自身の夢想から紡ぎ出される物語の世界だった。あふれんばかりの想像力に加え、類い希な文才にも恵まれていたエンジェルは、しばしば学校へ行くことも忘れ、夢中で物語を書き綴った。女流作家として成功をおさめることで、本来の貴族の生活が手に入ると信じて……。

ついに文壇デビュー

 チャンスはまもなく訪れた。「レディ・イレニア」の原稿を送った出版社から、採用の手紙が送られてきたのだ。さっそくエンジェルは、発行人のセオ・ギルブライト(サム・ニール)に会うためロンドンへ出向いていった。経験豊富な編集者でもあるギルブライトは、エンジェルのあまりの若さに驚くと同時に、彼女が経験やリサーチに頼らず、空想によってすべての物語を書き上げていることに少なからず衝撃を受けた。実際、「レディ・イレニア」の中には、シャンパンを栓抜きで開けるような現実離れした描写もあったが、それを間違いだと指摘するギルブライトの意見を、エンジェルは聞き入れようとしなかった。
「単語1つ、コンマ1つ、変えません」
 そう言い放ち、ギルブライトのオフィスを飛び出すエンジェル。仕方なくその後を追ったギルブライトは、エンジェルの小説を、何ひとつ手を加えず出版することに同意する。いっぽう、ギルブライトの妻のハーマイオニー(シャーロット・ランプリング)は、夕食に招いたエンジェルに「想像力だけの未熟な描写が多い」と苦言を呈すが、自分の作品に絶対的な自信を持つエンジェルは、ハーマイオニーの軽蔑的な視線を真正面からはね返した。

成功、そして初めての恋

 ほどなくして、エンジェルとギルブライトの正しさが証明される。出版された「レディ・イレニア」は舞台劇化されるほどのベストセラーになり、エンジェルは文学賞を受賞。勢いに乗った彼女は次々と新作を発表し、たちまち人気作家の仲間入りを果たした。
 そしてついに、エンジェルが長年の夢をかなえる日がやって来る。持ち主が破産したことから売りに出ていた豪邸〈パラダイス〉を、購入することができたのだ。さっそく母と共に憧れの屋敷に移り住むエンジェル。心から望み続けることで夢を現実に変えた彼女は、骨董品の高価な家具で埋め尽くされた部屋でますます執筆に励んだ。
 そんなエンジェルの元を、ある日、ノーリー卿の姪のノラ・ハウ=ネヴィンソン(ルーシー・ラッセル)が訪ねてくる。エンジェルの小説の崇拝者であるノラは、個人秘書としてエンジェルに仕えたいと申し出た。エンジェル自身は、個人秘書の必要性を感じていなかったが、ノラの弟で画家のエスメ(マイケル・ファスベンダー)に興味を持っていたことから、ノラを雇うことに決めた。
 後日、エスメのアトリエを訪ねたエンジェルは、彼に肖像画を依頼。画家とモデルとして過ごす時間の中で、恋心を高まらせていく。

母の死、結婚 ── 書き替えられる人生

 そんなある日、エンジェルの母が亡くなった。取材に訪れた地元紙の記者に対し、母が英国有数のピアニストだったと語るエンジェル。もちろん、それは彼女の願望にすぎなかったが、強く信じれば過去さえも塗り替えられることを、いまのエンジェルは知っていた。
 新作小説「ヴェネチアの想い」の出版記念パーティが、ロンドンで行われた日。深紅のドレスに身を包んだエンジェルは、自分からエスメに結婚を申し込んだ。「出会ったときからずっと愛しているの。死ぬまで愛し続けるわ」。熱いプロポーズの言葉でエスメを押し切り、結婚を承諾させたエンジェルは、ハネムーンから戻ったあと、〈パラダイス〉にしつらえた新しいアトリエを夫にプレゼントする。

戦争と別れ ── 運命のパラドックス

 こうして始まったエンジェルとエスメの新婚生活。しかし、幸せはそう長く続かなかった。英国が第一次世界大戦に参戦した直後に、エスメが志願して軍隊に入隊したのだ。髪を振り乱し、半狂乱になって夫を行かせまいとするエンジェルだったが、祖国のために戦いたいというエスメの決意は固かった。姉のノラにエンジェルの世話を頼むと、エスメは〈パラダイス〉を後にした。「その扉を出て行くなら、もう二度と開けないわ!」というエンジェルの怒声を背に浴びながら。
 辛い出来事はそれだけではすまなかった。エスメの出征後に起きた流産の悲劇。エンジェルは、エスメに何も知らせず、たったひとりで悲しみを乗り越えようとした。そんな彼女のもとに、戦場で負傷し、脚を失ったエスメが戻って来るという知らせが届く。エスメのすべてを許し、2人で再出発しようと心に誓うエンジェル。だが、彼女の行く手には、思いも寄らない皮肉な運命が待ち受けていた・・・・・・。

スタッフ

監督・脚色:フランソワ・オゾン
ダイアローグ:フランソワ・オゾン/マーティン・クリンプ
原作:エリザベス・テイラー
製作総指揮:ターニャ・セガーチェン
製作:オリヴィエ・デルボス/マルク・ミソニエ
撮影監督:ドニ・ルノワール
衣装:パスカリーヌ・シャヴァンヌ
美術:カーチャ・ヴィシュコフ
音楽:フィリップ・ロンビ
編集:ミュリエル・ブルトン
キャスティング:カレン・リンゼイ・スチュアート

キャスト

エンジェル・デヴェレル:ロモーラ・ガライ
ハーマイオニー・ギルブライト:シャーロット・ランプリング
セオ・ギルブライト:サム・ニール
ノラ・ハウ=ネヴィンソン:ルーシー・ラッセル
エスメ・ハウ=ネヴィンソン:マイケル・ファスベンダー
エンジェルの母親:ジャクリーン・トン
ロッティ叔母さん:ジャニーン・デュビツキ
ノーリー卿:クリストファー・ベンジャミン
アンジェリカ:ジェマ・パウエル

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