値札のついた命

2008年/日本/カラー/138分/ 配給:ゴー・シネマ

2009年02月25日よりDVDリリース 2008年8月2日(土)より、シネマライズほか全国順次ロードショー

(c)2008映画「闇の子供たち」製作委員会

公開初日 2008/08/02

配給会社名 0943

解説



タイ駐在の新聞記者、南部浩行が、若いフリーカメラマン、与田博明の協力を得て、闇ルートで取引されている臓器の密売に関する取材を開始する。しかし金のために子供の命までも容赦なく奪われるその実態は、想像を遙かに超えるおぞましきものだった。一方、理想を秘めてバンコクのNGO団体に加入した音羽恵子も、子供たちがさらされているあまりにも悲惨な現実を目の当たりにしていく・・・・。
「夜を賭けて」「血と骨」などで名高い小説家、梁石日が、実際にタイのアンダーグラウンドで行われている幼児売買春、人身売買の現実を凄まじい筆致でえぐり出した問題作「闇の子供たち」。読み手がページをめくることさえ躊躇するほど衝撃的なテーマ、内容ゆえに映画化は不可能と思われていた企画が、タイでの大がかりな現地ロケによって実現した。
監督は、持ち前の骨太な作風に磨きをかけながら多彩なジャンルの快作を世に送り出し、「亡国のイージス」『魂萌え!』といった近作でも大きな反響を呼び起こした阪本順治。リスクを恐れず新たな挑戦に踏み出した彼が、「子供の悲劇」を扱う映画が陥りがちな甘ったるおセンチメンタリズムなどにも目もくれず、硬質なサスペンスみなぎる映像世界を創り上げた。さらに自ら脚本を執筆したドラマの驚くべき「落としどころ」には、すべての観客が言葉を失い、ただならぬ胸のざわめきを覚えるに違いない。ニュース番組やドキュメンタリーとは異なる映画作家ならではのアプローチと嗅覚を武器に、この世の理不尽な闇へと果敢に切り込んだ本作は、まさに阪本順治の最高傑作として完成した。

「闇の子供達」は誰もが「目を背けたくなる現実」を、ひるむことなく真正面から凝視した社会的なドラマである。何の罪もない無垢な子供たちが、欲望まみれの大人たちのエゴに蹂躙され、虫けらのように扱われる。売春宿に監禁された彼らは、ペドファイル(幼児性愛者)と呼ばれる先進国の外国人客のセックスの玩具にされて心身共に耐えがたい傷を負い、病気にかかればゴミ同然に捨てられてしまう。「人の命は金では買えない」などという言葉は、この闇の世界においてはまったく説得力を持たないのだ。
阪本監督はかけがえのない子供たちの生命のきらめきをすくい取るとともに、マフィアの暴力、性的虐待を犯すペドファイルの醜さをオブラードにくるむことなく映像化した。もしそれらの描写に拒絶反応を示す観客が出ようとも、この映画のテーマに肉薄するには向き合わざるをえない現実だからである。むろん撮影は現地の警察の全面協力のもと、現場ではタイの子役たちの気持ちと安全に細心の注意を払い、タイ側スタッフ&キャストにも映画の社会的な趣旨をしっかりと伝え、確かな信頼関係のもとで撮影を進めていった。

本作の企画の意義に賛同し、日本映画界を代表する豪華俳優陣がキャストに名を連ねた。まず主人公の南部役は、「となり町戦争」『アンフェア the movie』などの近作も記憶に新しい江口洋介。正義感の強さの陰でジレンマを抱える新聞記者の葛藤をこのうえなくリアルに表現する。自分探しの途中で、異国のNGO活動に身を投じるナイーブな女性、音羽役は宮崎あおい。数々の映画での目覚しい活躍はもちろん、NHK大河ドラマ「篤姫」の主演でも注目を集める彼女が、つらい日々の中で成長を遂げていくヒロインをひたむきに演じきった。そして人気&実力共に若手屈指の妻夫木聡が、南部の協力者となるフリーカメラマン、与田役をナチュラルな演技で体現。現実から逃避がちな与田は、多くの日本人にとって思い当たる部分のある現実的な青年像であり、彼が南部と行動を共にすることで新たな意識に目覚める姿は観る者の共感を誘う。難病を患う我が子に臓器移植手術を受けさせようとする夫婦に扮した佐藤浩市、鈴木砂羽も、短い出演シーンながら深い印象を残す。そして本編の余韻が覚めやらぬなか、エンドロールに流れる主題歌「現代東京奇譚」は、この映画の問題意識に賛同した桑田佳祐によるオリジナルナンバーである。

ストーリー

日本新聞社バンコク市局の記者、南部浩行が、東京本社の社会部からあるネタの調査を依頼される。それは近く日本人の子供がタイに渡り、臓器移植手術を受けるらしいとの情報だった。闇社会の事情に通じるタイ人の知人に金を握らせた南部は、臓器移植の元仲介者に接触。その元仲介者から聞きだしたのは、提供者の子供が生きたまま臓器をえぐり取られるという衝撃の事実だった。そのことを東京の社会部に報告した南部は、さらなる取材を決意するのだった。
その頃、若い日本人女性、音羽恵子がバンコクの社会福祉センタ—(バーンウンアイラック(愛あふれる家)に到着した。東京の大学で社会福祉を学んだ彼女は、アジアの子供たちのために何かをしたいという思いで、このセンターにやってきたのだ。それは音羽にとって本当の自分を発見するための旅でもあった。女性所長ナパポーンのスラム街の視察に同行した音羽は、そこでバンコクの貧民層の厳しい現実を目の当たりにする。ナパポーンの気がかりは、読み書きを教えていたアランヤ—という少女が最近センターに姿を見せなくなったことだった。そのことをアランヤーの親に問い質すものの、彼女は仕事が忙しくてそれどころではないという。そしてナパポーンや音羽は、取材のためセンターを訪れた南部からの子供の臓器移植手術の情報を聞かされ、戦慄を覚えるのだった。
実はアランヤーはチェンライの街の一角にある売春宿に売り飛ばされていた。マフィアが仕切るこの売春宿には大勢の子供たちが劣悪な監禁部屋に閉じ込められ、欧米や日本から来た児童性愛者の相手を強いられている。客の要求を拒んだ子供は容赦ない暴力で痛めつけられ、病気で弱りきった子供は病院に連れて行かれることなく、物のように捨てられてしまう。ある朝、売春宿からトラックに乗せられた黒いゴミ袋には、エイズを発症したヤイルーンという少女が包まれていた。
ヤイルーンの故郷は国境の向こうの美しい山間部の村である。捨てられたヤイルーンと入れ替わるようにして、彼女の妹センラーがチットというマフィアの男に連れられてバンコクの売春宿にやってきた。今日からセンラーも外国人客を相手に身を売ることになるのだ。
そんなある日、アランヤーからの助けを求める手紙が<バーンウンアイラック>に届いた。すかさずナパポーンや音羽らはチェンライに飛び、売春宿の場所を探りあてるが、警察は証拠不十分として動こうとしない。自力でアランヤーを救い出そうにも、マフィアの監視の目に妨げられてどうすることも出来なかった。
東京には飛んだ南部と音羽は、最初に臓器移植手術のネタを掴んだ記者、清水と合流し、梶川という商社マンの自宅を訪ねる。彼こそはタイで手術を受けようとしてい子供の父親なのだ。しかし、その取材は「人の命をお金で買うんですか!」と音羽が叫んだために決裂してしまう。音羽の願いは、今まさに命の危機にさらされている子供を助けること。一方、南部はひとりを救っても新たな犠牲者が出るのだがら、それを食い止める方法を見つけるべきだと主張する。子供を救うという目的は同じでも、ふたりの間には決定的な亀裂が生じていた。
やがてタイに戻った音羽は無力感に打ちのめされながらも、チェンライの売春宿から新たに捨てられたゴミ袋の中から、病に冒されたアランヤーの救出に成功した。彼女のと別行動をとる南部は、バンコクで日本人フリーカメラマンの青年、与田を協力者として迎え、臓器移植者の子供が病院に連れてこられる決定的瞬間を撮影しようと試みる。しかしマフィアに拳銃で脅され、子供たちを救おうともがき苦しむ南部は、人間の内に潜む真の闇と向き合うはめになるのだった・・・・・。

スタッフ

監督・脚本:阪本順治
原作:梁 石日「闇の子供たち」幻冬舎文庫刊
主題歌:桑田佳祐「現代東京奇譚」(タイシタレーベル/ビクターエンタテインメント)
企画:中沢敏明
プロデューサー:椎井友紀子
音楽:岩代太郎
タイ撮影プロデューサー:唐崎正臣
美術:原田満生
撮影:笠松則通
録音:志満順一
照明:杉本崇

キャスト

江口洋介
宮崎あおい
妻夫木聡
佐藤浩市
鈴木砂羽
豊原功補
プラパドン・スワンバーン
プライマー・ラッチャタ

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