原題:Paris Je t'aime

2006年カンヌ国際映画祭「ある視点」オープニング作品正式出品

2006年/フランス/カラー/120分/ 配給:東宝東和

2007年10月24日よりDVDリリース 3月3日(土)より シャンテ シネ、恵比寿ガーデンシネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

(c) Mathilde BONNEFOY / Victoires International 2006 (c) Frederique BARRAJA / Victoires International 2006 (c) Patrick KLEIN / Victoires International 2006

公開初日 2007/03/03

配給会社名 0002

解説



ジャン=リュック・ゴダールやエリック・ロメールも参加した、ヌーヴェルヴァーグの頂点を極めた映画『パリところどころ』から早40年。その現代版ともいえる、新たなパリ映画の傑作がここに誕生した。その名も、『パリ、ジュテーム』。2006年(第59回)カンヌ国際映画祭「ある視点」部門のオープニングを飾り、カンヌの人々の話題をさらったのも記憶に新しい。それもそのはず、この映画には、『パリところどころ』に負けずとも劣らぬ、錚々たる顔ぶれが並んでいて、しかも、今回はフランスだけでなく、全世界から、この企画に賛同した優れた才能がパリに集まり、世界に名だたる18人の映画監督による夢のような競演が実現した。

それぞれが綴る、5分間の小さな「愛」のショートストーリー。そして、一見バラバラに見える各々の短編がごく自然につながって、美しいハーモニーを奏で出す。それは、まるでパリに暮らす人と人との出会いのように。こうして出来上がったこの『パリ、ジュテーム』は、まさに珠玉の短編集といった趣きの映画だ。フランス語のひそみに倣って、「アンソロジー(詞華集)」とでも呼びたい誘惑に駆られる。

それにしても、パリはどうしてここまで人を惹きつけるのだろう。映画人にとっては、パリが「映画の都」だからかもしれない。パリは、リュミエール兄弟によって映画が産声をあげた街であるだけでなく、現代の映画監督たちの創造の原点となったヌーヴェルヴァーグを育くんだ街でもある。そして、何よりパリは映画の舞台に事欠かない。

パリの街角には、いつでも映画のストーリーになりそうな小さな恋物語が潜んでいる。そんなパリの魅力に惹きつけられた監督たちが描くのは、どれも「特別なパリ」ではなく、「普段着のパリ」。いわば、観光客の目線ではなく、生活者の目線から見た「等身大のパリ」だ。生活者といっても、生粋のパリジャン&パリジェンヌと、移民や異邦人の眼から見たパリとでは、おのずと異なってくる。そして、そこで描かれる「愛」の形もさまざま。出会いもあれば別れもあり、喜びもあれば哀しみもある。時にはリアルに、時にはロマンティックに、時にはユーモラスに、また、時にはファンタジックに描かれる。それが、5分間という短い時間にもかかわらず、それぞれの監督が個性をきちんと反映させているところが面白い。いや、5分間だからこそ、監督の世界観がグッと際立ち、凝縮されているのかもしれない。そこに、さりげなく込められた深い人生哲学<エスプリ>がある。

この映画は、やはりパリを魅力的に描いた『アメリ』のプロデューサー、クローディー・オサールの呼びかけで実現した。主要な監督・出演者を挙げるだけでも、キラ星のような名前が並ぶ。監督は、アメリカから、コーエン兄弟、ガス・ヴァン・サント、ウェス・クレイヴン、アレクサンダー・ペインなど。その他、ヴィンチェンゾ・ナタリ(カナダ)、アルフォンソ・キュアロン(メキシコ)、ウォルター・サレス(ブラジル)。そして、ヨーロッパに目を転じれば、トム・ティクヴァ(ドイツ)、イサベル・コイシェ(スペイン)、グリンダ・チャーダ(UK)など。本国フランスからは、オリヴィエ・アサヤス、シルヴァン・ショメなど。また我が日本からは、諏訪敦彦。異色なところでは、俳優のジェラール・ドパルデューに、ウォン・カーウァイ作品の撮影監督で知られるクリストファー・ドイルの参加であろう。

そして、出演は、国際的スターのナタリー・ポートマン、イライジャ・ウッド、スティーヴ・ブシェミ、ウィレム・デフォー、ボブ・ホスキンスなど。フランスからは、ジュリエット・ビノシュ、ファニー・アルダン、リュディヴィーヌ・サニエ、ギャスパー・ウリエルなど。そして、ジョン・カサヴェテスにオマージュを捧げる意味で、ジーナ・ローランズとベン・ギャザラを、また、先達の『パリところどころ』に敬意を捧げる意味で、プロデューサーでもあったバーベット・シュローダーを起用しているのも、映画ファンには嬉しい贈り物となるだろう。

最後に、「La Meme Histoire」というテーマソングを、ジェーン・バーキンとも共演歴のある、カナダ生まれの女性シンガー、ファイストが歌っているのも、この映画の話題のひとつだ。

ストーリー



■1区
地下鉄チュイルリー駅のホームで、アメリカ人観光客の男がガイドブックを読んでいる。「パリは恋人たちの街」という紹介どおり、向かいのベンチではカップルが熱烈なキスを交わしている。思わずそれを凝視していた観光客の視線に気づき、カップルの男が怒声をあげ出した。観光客はフランス語がわからないが、どうも因縁をつけられているらしい。逆上する男とたしなめようとした女は派手にケンカをはじめるが、タイミングよく向こうに電車が滑り込んで来て一件落着と思った次の瞬間、女が観光客にディープキスしてきて、さあ大変!

■2区
「ママ、カウボーイは今もいるんだよ」 カウボーイの存在を無邪気に信じていた息子のジュスタンを1週間前に亡くしたスザンヌは、夫の慰めも娘の励ましの言葉も耳に入らず、泣き暮らして抜け殻のような日々を送っている。ある晩、ジュスタンの声が聞こえて、思わず飛び出した広場で、彼女は馬に乗ったカウボーイと出会う。「息子に会いたいか?私について来る勇気があるか?」とたずねるカウボーイに、スザンヌは無言で何度も何度もうなずくのだった。

■3区
映画の撮影でパリにやって来たアメリカ人女優のリズは、ドラッグの代金を支払うために角のATMまで行くが、高額紙幣しか引き出せない。お金をくずそうと仕方なく寄ったカフェで、リズが女優だと知ったケンは撮影を見たいと言い出す。頼まれるままにリズは、「だったら電話して」と携帯の番号をコースターに書いて渡す。撮影の長い待ち時間中にリズはケンに会いたくなって、再度、撮影現場までドラッグのデリバリーを頼むのだが……。

■4区
街の印刷所に、英国の女性客が通訳のガスパールと共にやって来る。店主と女性客が奥に行っている間、店先に残されたガスパールは、下働きの青年エリに一瞬で興味をひかれる。「君の顔に見覚えがある、特別なオーラを感じるんだ。前世で会ったんじゃないかな」 エリこそソウルメイトと信じ、熱い想いを語り続けたガスパールは、帰り際、エリに電話番号を渡した。そんなガスパールの後ろ姿を見送りながら、エリは店主に向かって英語でつぶやく……。

■5区
2人の悪友と一緒にセーヌ河岸でナンパをしていたフランソワは、目の前で転んだアラブ系の若い女性をとっさに助け起こす。ほどけたベールを巻き直し、彼女が美しい髪を包み隠してしまうのを見て、「どうして髪を隠すの?」とたずねるフランソワに、彼女はベール<ヘジャブ>をかぶる理由を話して去っていく。そんな純粋な彼女に心打たれたフランソワは、名前も連絡先もわからないまま、ただモスクに向かい、彼女を待つのだが……。

■6区
初老のアメリカ人ベンは、別居中の妻ジーナと正式に離婚するために、パリへやって来た。ジーナのなじみのレストランで、久々に顔を合わせたふたり。お互いにまだ気持ちは残っているようだが、ジーナは若いサイクリストと交際、ベンには妊娠3カ月の若い愛人がいる。「離婚が成立したら、彼女と結婚する」というベンの言葉に驚いたジーナだったが、翌日の離婚調停の時間を確認して、先に出て行く。苦い思いで席を立つベンに、レストランのオーナーが声をかける。

■7区
エッフェル塔のすぐそばに、ひとりの男が住んでいた。彼にとって、パントマイムを演じることは人生のすべてなのに、気味悪がって誰も相手にしてくれないから、いつも独りぼっちだ。そんな彼が不審者と間違われて放り込まれた留置所で、女性のマイム・アーティストと運命的な出会いを果たす。似た者同士、すぐに意気投合したふたりの間には、やがて可愛らしい男の子が生まれる。

■8区
深夜、バックパックを担いだ青年は、今まさに人を襲ったばかりの美貌のヴァンパイアと出くわす。しかし、自分を襲わずに立ち去ろうとする彼女をひきとめるために、彼はわざと手に傷をつけて血流す。それでも彼女は彼を襲おうとしなかったが、ふいに階段から落ちた青年が瀕死の重傷を負ったのを見て、駆け寄ってきた。ヴァンパイアの彼女から血をもらって、彼もヴァンパイアとして蘇生するが……。

■9区
赤いネオンがまたたく歓楽街ピガール。のぞき部屋にやって来たボブの個室に、さっき一杯ひっかけるために寄ったバーで短い会話を交わした女性が現れる。ためらいと期待が入り混じる中、彼女といいムードになったボブが調子にのって「ここにキスしてくれ」と言ったとたん、女性は「セリフは覚えてるけど、言えないわ」と怒り出す。そう、ふたりは、長年舞台でコンビを組んでいるカップル。刺激を求めてこのピガールへやって来たのだ……。

■10区
盲目の学生トマは、恋人から突然、別れを告げる電話を受ける。恋人のフランシーヌとの出会いは、5月15日。女優志望の彼女が、ヒモに監禁されている娼婦役のセリフの練習していたのを、本当に危険が迫っていると勘違いしたトマが、通りから声をかけたことがきっかけだった。オーディションに合格したフランシーヌは、アメリカからパリに移り住み、トマと交際をはじめる。以来、いつもふたりはそばにいたのに、時は飛ぶように過ぎていき……。

■12区
男には、交際1年半になる客室乗務員の愛人がいる。今日、妻を愛していないことに初めて気づいたレストランで、男は妻に別れ話を切り出すつもりだった。しかし、その試みは失敗に終わる。妻が号泣しながら、衝撃的な事実を告白したからだ。末期の白血病を患った妻と一緒に過ごすことに決めた男、刻一刻と死に近づく妻。こうして始まった男と女の最後の濃密な日々彼は、妻に恋する男を演じることで、妻に2度目の恋をする。

■13区
シャンプーのセールスマンをするミスター・アイニーは、チャイナタウンにあるマダム・リーの美容室へやって来た。いきなりカンフーの手荒い歓迎を受けるが、マダムにぴったりのヘアスタイルを提案。そのテクニックにマダムは恍惚に酔い、おおいに喜ばれるミスター・アイニー。「アイニーは、中国語で“ジュテーム”の意味よ」とささやくマダムに、「君はいまの髪型がいちばんステキだ」と言い残し、彼はチャイナタウンを後にする。

■14区
デンヴァーで郵便配達するキャロルの、パリでの“特別な1日”の物語。ひとりで憧れのパリへやって来た彼女は、ひとりで街を眺め、ひとりで食事をする。自分は自立した大人の女だし、1人旅は自由だが、「きれいね」と言いたくても誰もそばにいないのは、なんだか味気ない。そしてある日、キャロルは14区で小さいけれど美しい公園を見つける。その公園のベンチでサンドイッチを食べていたとき、“あること”が起きる。それは、キャロルにとって、何かを思い出したような、ずっと待っていたような不思議な出来事だった……。

■16区
パリ郊外の団地に住む移民のアナは、毎日夜明けとともに起き、まだ辺りが薄暗い時間に、生まれて間もない子供を託児所に預けて、電車とバスと地下鉄を乗り継いで16区の仕事場に出かけていく。そこで彼女を待っているのは、豪華なマンションで暮らす一家のベビーシッターの仕事。派手な泣き声に気づいて、贅沢な子供部屋に入っていったアナは、泣いている赤ん坊に子守歌をやさしく歌う。最愛の我が子をあやすときと同じ歌を。

■17区
モンソー公園の近くの通りで、クレアは、待ち合わせに遅れてきた初老の男ヴィンセントとやっと落ち合う。通りを歩きながら、ふたりの間で交わされる緊迫した会話。「俺を信用してくれ」、「ギャスパールに人生を支配されそうで恐いの」、「下手に逆らわなければ、俺たちが会うチャンスはもっと増えるさ」気持ちが不安定なクレアは、どうやらギャスパールという男から逃げ出すために、ヴィンセントの手を借りようとしているようなのだが…?

■18区
坂道が続くモンマルトルで、駐車スペースを探すのは至難の業。だからスペースを確保できた彼はラッキーなのに、浮かない顔をしている。恋人のいない孤独な自分にうんざりしているからだ。そんな男が乗った車の横で、黒いコートの女が突然倒れる。救命士の資格を持つ彼は、女をマイカーの後部座席でしばらく休ませることに。やがて意識を取り戻した女は、「手が気持ちよかったわ」と感謝の気持ちを伝え、車から降りようとするが……。

■19区
広場の真ん中で、若い医学生のソフィが、何者かに腹を刺されて瀕死の重傷を負ったハッサンに応急処置をしている。献身的に介抱してくれる彼女を見て、ハッサンはふと思い出した。駐車場の雑用係をしていたとき、車を入れに来たソフィに一目惚れして、お茶に誘おうとしたことを。薄れゆく意識の中で、ハッサンは、あの時に実現できなかった、ソフィとコーヒーを飲む夢をかなえようとするが……。

■20区
フランシスとウィリアムは、結婚を1カ月後に控えたイギリス人のカップル。フランシスの希望で有名人が数多く眠るこの墓地へやって来たものの、彼女がオスカー・ワイルドの墓にキスするのを、彼が「不潔だ」と非難したことで大ゲンカがはじまる。彼女は以前から、彼がカタブツでジョークが通じないのを不満に思っていて、そのことをぶちまけて、泣きながら去っていく。すると、ひとり取り残されたウィリアムの前に、優雅にたばこを燻らせるオスカー・ワイルドが現れた……。

スタッフ

監督:ジョエル・コーエン 、イーサン・コーエン 、
   オリヴィエ・アサイヤス 、諏訪敦彦 、
   ガス・ヴァン・サント 、トム・ティクヴァ 、
   ウォルター・サレス 、アレクサンダー・ペイン 、
   アルフォンソ・キュアロン 、クリストファー・ドイル 、
   ウェス・クレイヴン 、グリンダ・チャーダ 、
   シルヴァン・ショメ 、イザベル・コヘット 、
   ジェラール・ドパルデュー 、リチャード・ラグラヴェネーズ 、
   ヴィンチェンゾ・ナタリ 、ダニエラ・トマス 、
   オリヴァー・シュミッツ 、フレデリック・オービュルタン

キャスト

ナタリー・ポートマン
ジュリエット・ビノシュ
ファニー・アルダン
イライジャ・ウッド
マギー・ギレンホール
ギャスパー・ウリエル

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