2005年台湾金馬奨音楽賞受賞 第18回東京国際映画祭<アジアの風>台湾:電影ルネッサンス出品

2005年/台湾/カラー/北京語/ヴィスタサイズ/ドルビーSRD/108分/ 配給:コミックリズ、ワコー

2007年03月02日よりDVDリリース 2006年8月19日(土)より、新宿武蔵野館にてロードショー 全国順次公開

©Green Light Film Ltd

公開初日 2006/08/19

配給会社名 0729/0321

解説


 刑務所から出所したばかりの娘アユー。自分の内面に閉じこもり気味の彼女は、誰とも心を許さない。ただ一人、刑務所内で実の姉のように慕っていたアンを除いて。港町にあるアンの経営するバーで働くことになるアユー。客の一人に好意を寄せられるが、他者との接し方が分からない彼女は男に対し、情念の赴くまま執拗に迫り続け、破局を迎えてしまう。やがて、彼女は新しい恋に巡り会うのだが……。
 台湾第二の大都市である港町・高雄を舞台に、姉妹のような2人の女性の友情と葛藤、そして彼女たちと関わる男たちとの関係を通して、孤独と放浪のなかでしか生きられない人間同士の心のぬくもりを詩情豊かに謳いあげたのが『深海 Blue Cha-Cha』である。ホウ・シャオシェン(『悲情城市』)、エドワード・ヤン(『カップルズ』)、ツァイ・ミンリャン(『愛情萬歳』)、チェン・ユーシュン(『ラブゴーゴー』)、リン・チェンシェン(『台北ソリチュード』)etc。1980年代のニューウェイブ勢力の台頭以降、評価の高い映画作家を次々と世に送り出してきた台湾映画界。ハリウッドに渡ったアン・リー(『グリーン・デスティニー』)も今年、『ブロークバック・マウンテン』で見事、アカデミー賞監督賞を獲得するなど、その層の厚さは世界でもトップクラス。トータルの興行面では飛ぶ鳥を落とす勢いの韓国映画界にはかなわないものの、行政府による積極的な支援もあり、昨年の第18回東京国際映画祭では、「台湾:電影ルネッサンス」と題して、ドキュメンタリーから娯楽作品まで、なんと11本もの新作が特集上映されたくらい、新進作家たちの可能性に広がりを見せているのが現在の状況だ。『深海 Blue Cha-Cha』はそのなかでも際だった作家性に富んだ傑作である。
 ’58年生まれのチェン・ウェンタン監督は、’80年代から映画業界で活動を続け、2002年の『夢幻部落』(第59回ヴェネチア国際映画祭批評家週間・最優秀新人作品賞受賞、「台湾映画祭2003」で日本上映)で長編デビュー。大都会にやってきた少数民族タイヤル族出身の男とテレクラ通いを続ける青年が織りなす幻想とノスタルジーが交差した物語で絶賛されている。台湾故宮博物院を舞台にした2作目の恋愛劇『時の流れの中で』(’04『藍色夏恋』のグイ・ルンメイ主演)は、第17回東京国際映画祭のコンペティション部門に出品。本作はそれに続く長編第3作にあたる。
 ヒロイン、アユーを演じたターシー・スーはその容姿と歌唱力を生かし、’90年代からアイドル歌手として台湾ポップスのなかでもトップの人気を維持し、俳優に転じてからは、『藍月』(第10回東京国際映画祭で上映)など、数本の映画に出演。本作ではこれまでの作品には見られなかった感情を剥き出しにした演技で、彼女の新しい魅力が引き出されている。アユーが思いを寄せる2人目の男、シャオハオを演じたリー・ウェイは、F4などと並ぶ華流人気スター。アイドルデュオ「WEWE」の一人としてブレイク後、『トースト・ボーイズ・キッス』などのTVドラマで俳優としても活躍。映画出演は本作が初めてだが、監督の期待に応え、秘めた才能の確かさを予感させる演技を披露している。
 アユーを優しく、時には厳しくも見守るアンを演じたルー・イーチンは、『青春神話』『河』『ふたつの時、ふたりの時間』と、連続してツァイ・ミンリャン作品に出演。シャオカンことリー・カンションの母親役として、オフビートかつエキセントリックな魅力を振りまくツァイ組のゴッドマザーといってもいい存在だ。
 出所したアユーをバーで見初めるチェンを演じたレオン・ダイは、台湾金馬奨助演男優賞を受賞した『現実の続き夢の終わり』をはじめ、『ヤンヤン 夏の想い出』(エドワード・ヤン)、『君のいた永遠』(シルヴィア・チャン)『ダブル・ビジョン』(チェン・クォフー)といったベテラン監督作から『シーディンの夏』(チェン・ヨウチェー)など新進気鋭の監督作まで、話題の台湾映画には必ずといっていいくらい、出没するという名俳優。監督としても、香港のヒット映画をリメイクした『台北晩9朝5』で高く評価されている実力の持ち主。チェン・ウェンタン作品にはそのすべてに顔を覗かせている。
 本作のラストでは、ホウ・シャオシェンの『戯夢人生』でも有名になった台湾の伝承人形劇「布袋戯(プータイシ)」が登場するが、アンが思い詰めた苦悩をすべて忘れさせるかのように踊るチャチャのリズムと同様、外面的に傷ついたままだったアユーの眠れる笑顔を静かに呼び起こす、癒しの象徴として効果的に使われている。

ストーリー

台湾南部の美しい港町・高雄。鼓山フェリー乗り場からひとりの美しい女性がフェリーに乗り込んだ。アユー(ターシー・スー)は刑務所を出所したばかり、入所時に姉のように慕っていた女性アン(ルー・イーチン)の元を訪ねる途中である。
「頭の中のスイッチが入ったら自分では切れないの」—————心に病を抱えるアユーは、飲まないと危ないと医者に言われ、欠かさず薬を飲み続けている。行く宛てのない彼女は、刑務所で“面倒を見てくれる”と言ったアンの言葉だけを頼りに、彼女を訪ねてきた。あまり景気が良くないにも関わらず、アンは福の神だからと言って家に迎え入れ、自らの経営するクラブでアユーに仕事を世話する。クラブではほの暗い照明の中、チャチャのリズムで女たちが踊っている。アユーの美しさに惹かれたクラブの客チェン(レオン・ダイ)が、ひと月分の給料より高い金額でアユーを店の外に連れ出す。会うのはいいけど好きになってはいけないというアンのアドバイスにも関わらず、アユーはチェンに夢中になった。おもちゃの輸出で最近羽振りがいい彼は、お金を使うのは厭わない。赤い花柄の美しいコートをプレゼントし、今夜も会いに来ると言い残す。その言葉を信じて待ち続けるアユー。しかしいつまでも彼は現れない。気付けばコップが割れるまで洗いものをし、何度も携帯を鳴らしてはなぜ来ないのかと責め立てた。夜、店に来たチェンに縋りつき、思い詰めたアユーが手を挙げた。アユーを庇ってチェンを怒鳴ったアンは、その夜、上客をひとり失くす。
アンの世話で、アユーは工場で簡単な仕事に就くことになった。単調な流れ作業をこなす仕事で、ひとりでデスクに向かう。作業指導の先輩シャオハオ(リー・ウェイ)は、話しかけても俯いたまま振り向かない態度にちょっと腹を立てつつ、美しいアユーに興味を持った。環境に不慣れだろうと何くれと話しかけるシャオハオ。アユーは彼に少しずつ心を開く。シャオハオが家まで送ってくれた日、別れた後アンが就職祝いにくれた携帯にメールが届いた。“僕を信じて。すべてうまくいくから シャオハオ”。シャオハオの家に遊びに行った帰り、アユーは一緒に住んでもいいかと尋ねる。シャオハオが気軽に了承したとは思いもせずに、恋人の家へ引っ越すことをアンに告げる。アンは2階の窓から道路に向って、無言で次々とアユーの荷物を抛り出した。
アユーはいつも一緒にいたくて、シャオハオが友達と遊ぶ時も、工場で昼食を食べる時も、夕食時も、ずっと傍らにいた。のべつシャオハオの愛を確認し、きっかけがあると自分を卑下し、悲しくなって殻に閉じこもる。自分の時間が全く無くなったシャオハオは、徐々に疎ましく思い始め、ついに家を出て行ってしまうのだった……

スタッフ

エグゼクティブプロデューサー・監督・脚本:チェン・ウェンタン(鄭文堂)
製作:緑光全傳播有限公司
   財團法人公共電視文化事業基金會
制作:緑光全傳播有限公司
エグゼクティブプロデューサー:スン・チン(孫青)
プロデューサー:ヤン・チーイン(楊齊永)
        ホアン・ハオチエ(黄皓傑)
脚本:チェン・チンフォン(鄭静芬)
撮影:リン・チェンイン(林正英)
照明:チェン・ツォンリャン(陳宗良)
美術:タイ・ターウェイ(戴徳偉)
録音:トゥ・トゥーチ(杜篤之)
   クオ・リーチ(郭禮杞)
編集:レイ・チェンチン(雷震卿)
音楽:シンシン・リー(李欣芸)

キャスト

蘇慧倫( ターシー ・スー )
李威(リー・ウェイ)
陸奕静(ルー ・イーチン)
戴立忍(レオン・ダイ )

LINK

□この作品のインタビューを見る
□この作品に関する情報をもっと探す