原題:Capote

2005年/アメリカ/ 配給:ソニー・ピクチャーズエンターテインメント

2007年11月28日よりDVDリリース 2007年03月16日よりDVDリリース 9月30日(土)、日比谷シャンテシネ、恵比寿ガーデンシネマ他 全国順次ロードショー

公開初日 2006/09/30

配給会社名 0042

解説


 アカデミー賞主要5部門ノミネートを筆頭に、ゴールデングローブ賞、各批評家協会賞、アメリカ映画協会賞など全米の主要な映画祭賞において、高い評価と賞賛の声に迎えられた『カポーティ』。昨秋の全米公開以来うなぎ上りに評価を高め、日本公開が待ち望まれていたこの秀作が、いよいよベールを脱ぐ。
 主人公はトルーマン・カポーティ。そう、「遠い声、遠い部屋」「ティファニーで朝食を」などの傑作小説を生み、没後20年以上を経て今なお天才作家の呼び名をほしいままにしている、あのカポーティである。
 物語は1959年、彼が小さな新聞記事に目を留めたことから始まる。カンザス州の田舎町で農家の一家4人が惨殺された、凄惨な事件。興味を抱いたカポーティはノンフィクションの新たな地平を切り開くという野望を胸に秘め、取材に着手する。捜査に当たった保安官や事件の発見者を訪ね歩き、現場や遺体を見てまわり、ついには逮捕された犯人二人組に接触。とりわけ、その一人ペリー・スミスとの出会いは彼の創作意欲を刺激し、壮大なノンフィクション小説——後に発表される代表作「冷血」——の構想が出来上がっていった。やがて犯人に下される死刑判決。ここからがカポーティにとって“生みの苦しみ”となった。肝心の犯行時の模様について、ペリーは未だ多くを語ろうとしない。さらに小説の結末となるであろう死刑執行は延期されるばかりで執筆は停滞する。もどかしさの中で、カポーティは苦悩をつのらせる。しかし、このとき彼はまだ知らなかった。この創作が自身にあたえる、真の精神的苦痛がどれほどのものかを……。
 計算された構成と端正な映像で描かれた物語は、カポーティの人物像や、「冷血」の誕生秘話を実話に基づいて伝える。そういう点では、確かにカポーティ作品の愛読者には興味深いものとなるだろう。しかし、この映画が衝撃的と評されるのは、決して事実を明らかにしているからではない。野心と倫理観の葛藤、うわべだけの善意と底知れぬ悪意、果てしない孤独とそれがもたらす狂気。カポーティの姿を通して見えてくるそんな胸の内は、天才作家である彼のみが持ちえたものではなく、すべての人間の内に広がる深い闇なのだ。それと対峙したとき、観客はきっと気づくだろう。自分の中に潜む“冷血”に。
 本作を重厚な傑作に仕立てた最大の殊勲者は、何と言っても主演のフィリップ・シーモア・ホフマンである。『マグノリア』『レッド・ドラゴン』といった作品で演技派としての評価を着実に高めてきた彼が製作総指揮を兼任した本作では、カポーティ独特のジェスチャーやクセを徹底的に研究。従来の映画では聞けない高めのトーンの声色を貫き通すなどの表面的な特長を完璧に体得するのみならず、創作への熱意や苦悩を迫真の演技で表現し、パーフェクトなカポーティ像を作り出した。アカデミー賞をはじめ、主要映画賞の主演男優部門を総なめにしたのは、まさしくその証明である。
 共演者にも実力派がそろっている。カポーティの良き友人で、「アラバマ物語」の著者でもある女流作家ネル・ハーパー・リー役には、演技派キャサリン・キーナー。良心の声というべき重要な存在になりきった彼女は、この映画で、『マルコヴィッチの穴』に続いてアカデミー助演女優賞ノミートを受けた。また、事件を追及する保安官役に『アダプテーション』でアカデミー賞助演男優賞に輝いたクリス・クーパーが扮して渋みのある好演を披露。物語の鍵を握る殺人犯ペリー・スミス役に扮した『トラフィック』のクリフトン・コリンズJr.の、一見繊細そうだが近づけば切り裂かれそうな強烈な存在感も光る。また、『13デイズ』のブルース・グリーンウッド、『ゴースト・ワールド』のボブ・バラバンら、いぶし銀が、出番こそ少ないが、それぞれに印象的な演技を見せている点にも注目。この他、『宇宙戦争』のエミー・ライアン、『ナショナル・トレジャー』のマーク・ペレグリーノらが脇を固める。
 監督のベネット・ミラーは、これまでテレビCMやドキュメンタリーを手がけており、劇場用映画の演出はこれが初めて。題材に臆することなく、必要なエピソードを丹念に折り重ねて重厚なドラマに仕上げた手腕は、とても新人のものとは思えない。緻密な脚本を生み出したダン・フッターマンは俳優でもあり、こちらも映画の脚本は初めてで、本作では製作総指揮を兼任している。製作は『センター・ステージ』のキャロライン・バロン、『ファイナル・カット』のウィリアム・ヴィンス、『白いカラス』のマイケル・オホーヴェン。撮影監督に『ビューティフル・ガールズ』のアダム・キンメル、美術に『ラスト・サムライ』のジェス・ゴンゴール、編集に『チェンジング・レーン』のクリストファー・テレフセンと、各分野の才人が結集している。

ストーリー



 1959年11月15日、カンザス州ホルコム。畑に囲まれた一見の屋敷に、ひとりの少女が友達を訪ねてやってきた。しかし、そこに人の気配はなく屋内は不自然なほど静まり返っている。不審に思った少女が2階の友人の部屋へ行ってみると、そこには信じ難い凄惨な光景が……。
 翌日のニューヨーク。前年に発表した小説「ティファニーで朝食を」で作家としての名声を高めたトルーマン・カポーティ(フィリップ・シーモア・ホフマン)は、ニョーヨーク・タイムズに掲載された記事に目をとめる。カンザス州で農業を営むクラッター家の一家4人の惨殺事件。家長は喉をかき切られ、他の者は手足を縛られ顔面を銃で撃たれるという凄惨きわまりない手口。カポーティはこの事件にショックを受けると同時に、これを文章にしたいという欲求に駆られていた。ザ・ニューヨーカー紙の編集者ウィリアム・ショーン(ボブ・バラバン)に許可をとりつけ、幼馴染みで良き理解者であるネル・ハーパー・リー(キャサリン・キーナー)を伴い、彼は取材のためにカンザスへと向かう。
 まず足を運んだのは警察の記者会見場。捜査部長のアルヴィン・デューイ(クリス・クーパー)は仕事人タイプで、一筋縄ではいかない人物にみえた。そのうえ都会では有名人で同性愛者であることも受け入れられるカポーティだったが、田舎町では名声も役に立たず、人々の目には背の低い風変わりな男にしか映らない。それでもネルの奔走のおかけで、カポーティは発見者の少女ローラ(アリー・ミケルソン)との面会に成功。自分が他人と違うことで子供のころから厳しい目を向けられていたと打ち明けて彼女の信用を得て、ローラの友人だった被害者ナンシー・クラッターの日記を見せてもらった。
 翌日、思わぬことで事態は好転する。デューイの妻マリー(エミー・ライアン)がカポーティの作品のファンであったことから、彼とネルはハーパー家の夕食の招待を受けた。ハリウッドでの映画制作時の体験や子供のころの話をして夫妻を和ませたカポーティに、デューイはむごたらしい殺人現場の写真を見せる。クラター家の人々はデューイの友人でもあり、彼は悲壮な決意を胸に秘めて捜査に当たっていた。その夜遅く、ネルのもとに、彼女の小説「アラバマ物語」が出版されるとの連絡が。彼女とカポーティは、ひととき事件を忘れて、これを祝う。
 12月30日、事件は大きな転機を迎えた。容疑者ペリー・スミス(クリフトン・コリンズJr.)とリチャード・ヒコック(マーク・ペレグリノ)が逮捕されたのだ。年が開け、カポーティは保安官事務所を訪ね、拘置されているペリーと面会。多くを語らぬ彼の不思議な魅力にカポーティは引きつけられ、その後も足しげく通っては信頼を勝ち取り、有名なフォトグラファーに写真を撮らせるに至った。
 判決の日。陪審員は全員一致で有罪判決を下し、ペリーとリチャードは死刑を宣告される。死刑囚官房に移送されることになったペリーに、カポーティは自分を訪問者リストに加えるよう指示する。NYに戻ったカポーティは恋人で同じく作家のジャック・ダンフィー(ブルース・グリーンウッド)に、ペリーとリチャードの上訴のために腕利きの弁護士を雇いたいと打ち明けるが、彼のことを誰よりも理解しているジャックは“自分のためだろ?”と言い放つ。
 死刑囚官房に通うカポーティは、ペリーが“怪物”でないことを世間に知らせたいと彼を説得し、ペリーが記していたノートを借りることに成功する。そこにはカポーティが知りたかった多くのことが書かれていた。一方、デューイも、トルーマンが死刑囚に新たな弁護士を見つけたことに憤慨しながらも、自分の捜査記録を見ることを許可した。これによって執筆は大きく前進する。1962年、ジャックとともにスペインの別荘を借りて執筆に励んでいたカポーティのもとに、草稿を読んだショーンが興奮して電話をかけてきた。そしてペリーらの控訴が棄却されたことを告げる。ペリーから事件時の模様を話してくれるまでは次章は書き上げられないと自覚していたカポーティは、予定を早めて彼に会いに行くが、求めていたものは得られなかった。
 「冷血」と題した、この小説は書きかけの段階でNYの朗読会で抜粋部分が発表され、大きな反響を呼ぶ。しかし、そのニュースが新聞に掲載されたことで、ペリーにトルーマンの嘘がばれてしまった。草稿を読みたいというペリーの要求を、トルーマンは“まだ何も書いていない”と断っていたのだ。ペリーは心を閉ざし、執筆は行き詰まる。しかし、これは「冷血」の完成させるまでに、トルーマンが乗り越えられなければいけない障害の最初のものに過ぎなかった……。

スタッフ

監督:ベネット・ミラー
製作:キャロライン・バロン、マイケル・オホーヴェン、ウィリアム・ヴィンス
製作総指揮:ダン・ファターマン、フィリップ・シーモア・ホフマン、ケリー・ロック、ダニー・ロセット
原作:ジェラルド・クラーク
脚本:ダン・ファターマン
撮影:アダム・キンメル
プロダクションデザイン:ジェス・ゴンコール
編集:クリストファー・テレフセン
音楽:マイケル・ダナ

キャスト

フィリップ・シーモア・ホフマン
キャサリン・キーナー
クリフトン・コリンズ・Jr
クリス・クーパー
ブルース・グリーンウッド
ボブ・バラバン
エイミー・ライアン
マーク・ペルグリノ
アリー・ミケルソン
マーシャル・ベル

LINK

□公式サイト
□IMDb
□この作品のインタビューを見る
□この作品に関する情報をもっと探す