いくら寝ても、寝たりない。

2007-2016年/日本/カラー/80分 配給:charm point

2016年11月5日(土)よりデジタル・リマスター版、新宿 Kʼs cinema にて4週間限定公開! 2010年10月23日(土)〜11月5日(金) 連日20:50より渋谷アップリンクX 2007年11月17日、ユーロスペースにてレイトショー 2005年5月13日(金)、14日(土) 北沢タウンホールにて“ライブ演奏”上映

公開初日 2007/11/17

配給会社名 0885

解説


–ぼんやりと、意識が希薄になっているときに、人の眼には、どんな景色がうつってるのだろうか?
 この映画が写し出すのは、ありふれた日常の、ありえない光景。そこには人間が、ほとんど姿を見せないのだ。誰もいないのに、気配がして、声がさざめく。それは、恐ろしいほど美しい心象風景。冬の淡くうつろう光を狙い、足掛け二年の歳月をかけて撮影された映像詩が、人を写す以上に、人の孤独を、情感を浮き彫りにする。

–原作は、山本直樹の同名漫画。その原典は、内田百けん(※)「山高帽子」。
 かつて内田百けん(※)という、稀有なる作家がいた。夏目漱石の弟子となり、明治・大正・昭和の流れをのらりくらりとすり抜けて、人を食ったような作風で、夢に迷いこむがごとき文章を遺した。「冥土」、「大貧帳」、「阿房列車」、そして鈴木清順監督『チゴイネルワイゼン』の原作となった「サラサーテの盤」など。
 「山高帽子」には、百?自身であろう青地という教師と、同じ漱石門下であり、海軍機関学校では職場の同僚だった、芥川龍之介と思しき教師、野口が登場する。この二人が話題にするのは、幻聴や錯覚にまつわる数々のエピソード。すでにそれが妄想的とも言える、日常を通して、“ぼんやりした不安”が語られる。芥川の遺書にあるその言葉のように、えたいの知れない、不思議な短編小説だ。
 孤高の漫画家・山本直樹は、その「山高帽子」の舞台を現代に、青地を女性に置き換えて、「眠り姫」を描いた。壊れていてむしろ普通かもしれない今の社会。ぼんやりした不安は、誰の心にも潜み、逃れられないものだと感じさせる、珠玉の名作である。
(※)門に月

–日常と幻想、現実と夢が交錯する、めまいのような映画。
 監督は、昨年『のんきな姉さん』で鮮烈なデビューを飾った異才・七里圭。前作に続いて、敬愛する山本直樹の作品に挑み、その迷宮的なテクストを読み解く。
 そもそも映画『眠り姫』は、『のんきな姉さん』公開記念イベント“山本直樹の小部屋”展のために企画され、上映した中編作品だった。しかし七里は、その出来上がりをよしとせず、それから一年以上も、有志のスタッフとともに製作を続行。ほぼ全編に渡って撮影し直し、装い新たに長編映画として構成したのだ。
 冬の樹の影を追い求め、夜明けの光を、霧の出を、静かに待ち続けた執念の結晶が、ついに完成披露される。

–響き合う、声と音楽の競演。室内楽団のライブ演奏による上映。
 さらに特筆すべきは、この斬新な映像詩を彩る音楽が、ライブで演奏されることだ。『のんきな姉さん』でもコンビを組んだ作曲家侘美秀俊が、今回も音楽を担当。十数名の女性を中心とした室内楽団カッセ・レゾナントを指揮し、上映に合わせて生演奏する。侘美&カッセと七里は、以前にも、短編映像『Untitled for Cindy』(2003年初演)などを合作・上演しており、その成果を踏まえた、長編映画での試みである。
 誰もいない風景、空っぽの世界から聞こえてくる声の物語に、音楽は、ときに叙情的なメロディで、ときに即興的な音像として、呼応する。ライブでしか表現できない、目覚めたら消えてしまう夢のような映画が生まれる、二日間だけの特別上映だ。

ストーリー







「今、出てきたトイレの中に、
     誰かがいるような気がしてならない……」

 パジャマ姿の青地(つぐみ)が眩しそうに、カーテンをめくる。もう、日も高い。中学校の非常勤教師をしている彼女は、このごろ学校に行くのがおっくうで、いくら寝ても寝不足の感じが抜けない。長くつきあい過ぎた彼氏(山本浩司)との会話は上滑りし、好きだという気持ちも、すでにおぼろになっている。繰り返し見続けるのは、記憶とも妄想ともつかぬ、奇妙な夢。どうも、何かが変だ。
 職員室では、面長の同僚教師・野口(西島秀俊)が、自分の顔のことは棚に上げて、青地の顔を、だんだん膨らんでいると笑う。帰宅すれば、トイレに貼った猫の写真が、何か言いたげに、こちらを見ている。そこはかとない、現実への違和感が、青地の心を占め始める……。

スタッフ

監督:七里 圭
原作:山本直樹
作・演出:七里圭 
音楽:侘美秀俊 
演奏:カッセ・レゾナント
撮影:高橋哲也
録音:小林徹哉 
効果:岡瀬晶彦 
仕上げ:三本木久城 
制作:平林 勉
音響:須藤高宏(マイクロサウンド) 
照明:須田斉政 
スチール:宮沢 豪 
宣伝デザイン:佐原宏臣

キャスト

つぐみ
西島秀俊
山本浩司
大友三郎
園部貴一
橋爪利博
榎本由希
張替小百合
横山美智代
五十嵐有砂
馬田幹子
坂東千紗
鶴巻尚子
斉藤唯
北田弥恵子
新柵未成

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