原題:Canary

あれから10年 神もいないこの地上を 子供たちは走りつづける

第5回東京フィルメックス(2004年11月20日〜28日、有楽町朝日ホール他)にて上映

2004年/日本/132分 配給:シネカノン

2005年10月28日よりビデオリリース 2005年10月28日よりDVDリリース 2005年3月12日、渋谷・アミューズCQN、新宿武蔵野館にてロードショー

(C)2004「カナリア」パートナーズ

公開初日 2005/03/12

配給会社名 0034

解説


奪われた家族を取り戻すため、光一は走り出した。
誰かの役に立ってみたいと言った由希は、その孤独な旅を助けた。
外の世界では、大人たちが喪失の中で再生を願っていた。
やがて光一は途方もない絶望をくぐり抜け、ひとつの選択をする。

今も世界の最前線に立つ子どもたち
95年、地下鉄サリン事件後のサティアンヘ強制捜査に入った警官隊が先頭に掲げていた、鳥かごの中のカナリア。あれから10年を迎えようとする今、映画『カナリア』は現代の日本が生んオご魂の孤児たちが「今を生きていく」姿を追いかけてゆく。カナリアと同じように最前線に立たされた子どもたち。その怒り、哀しみ、いくつもの感情を呑み込んだ声にならな叫びは、観る者の胸を打たずにはおかないだろう。彼らはやがて、剥き出しの心と身体を外気にさらけ出しながら、自分の手でかごの扉を開け放つ道を選び取る。

息を呑むラスト、魂が揺さぶられる、最高傑作の誕生
監督は、一作ごとにダイナミックさを増す確かな演出力ととも国内外で高い評価を受け、今もっとも注目される塩田明彦。草?剛と竹内結子を主演に迎えた大ヒット作『黄泉〈よみ〉がえり』につづく本作ではカルトの子どもの「その後」というセンセーショナルな題材を得つつ、新しい世界を切り拓く12歳の少年と少女を深く、強烈な存在感をもって描きだした。衝撃のラストまで漲る緊張感、これまでの塩田作品、をはるか陵ぐ強度、そして何より子どもたちの有無を言わせぬ素晴らしさ.さらなる進化を遂げた最高傑作が、ここに完成した。

瑞々しさを湛え疾走する、新たな才能たち
主人公・光一にはrRetumer』(山崎貴監督)・『半落ち』(佐々部清監督)・『バーバー吉野』(荻上直子監督)など映画出演が相次ぐ石田法嗣。少年の、一触即発の感情のほとばしりを見事に体現した・そして光一のく戦友>となっていく由希にはドラマ、CMなどで活躍中の新人、谷村美月。その印象深いまなざしの奥に、既に大人の女性をも喚起させる。ふたりの瑞々しさと躍動感溢れる演技は子どもの演出でも定評のある塩田監督の面目躍如といえるが、それを支えるのは『ドールズDolls』(北野武監督)ほか、その存在感で多くの映薗監督を魅了しつづける西島秀俊、「白痴』(手塚眞監督)での主演で海外からも絶賛された甲田益也子、億、りょう、っぐみ、水橋研二といった、これまでの塩田作品を支えてきた個性溢れる俳優陣だ。さらに本作では30年代の松竹蒲田で美少女スターとして活躍した井上雪子が68年ぶりに姿を現し・盲目の老婆を演じながらその美しさと存在感をスクリーンに焼き付けている。

浜田真理子、向井秀徳…、しなやかで強靱なるアーティストたちと映画との競演音楽には海外からも多数のアプローズを受ける大友良英。ある時は走るこどもたちの速度をさらに追い上げ、ある時は立ちつくす彼らにそっと寄り添うようにメロディが奏でられる。さらにクライマックスの雨のシーンでは由希の歩く道を照らすように浜田真理子が『銀色の道』を歌い、エンディング・テーマではナンバーガール解散後、新たにZAZEN BOYSを立ち上げた向井秀徳が、衝撃のラストとともに映画の強度をさらに高めている。

ストーリー



ひとりの少年が早朝の薄闇に身を潜めている。頭上に響くヘリコプターの爆音。殺気を帯びた暗い瞳が朝の空気の中で光を放つ。
少年の名は岩瀬光一、12歳。母・道子に連れられてカルト教団の施設で妹とともに数年を過ごしたが、カルトが引き起こしたテロ事件によって警察に保護され、関西の児童相談所に預けられた。だが祖父は、光一より4つ年下の妹の朝子だけを引き取っていく。母の行方はわからないままだ。
光一は、児童相談所を脱走した。
とある廃校で、履き古された運動靴と1本のドライバーを手に入れた光一は、ひたすら走りつづけた。東京にいる祖父の元に行き、朝子を取り戻すのだ。
光一は男に手錠をかけられて危うい目にあいかけていた少女、由希を偶然助ける。母親を亡くし、父親からは顧みられることのない彼女も光一と同じ12歳だ。児相で光一のことを見かけていた由希は、光一がカルト教団〈ニルヴァーナ〉の子どもで、児相を脱走してきたことに気づく。だが由希は助けてくれた恩返しといって光一のために衣類を調達し、「オッチャン」と呼ばれる老人のアパートを訪ねて東京へ行くための交通費の足しを得た。
夜道を歩くふたり。由希が口ずさむのは、昔、母がよく歌ってくれた「銀色の道」だ。「うちかて、人の役に立ちたい」
と言いつのった由希は、光一と一緒に東京へ向かうことを決める。
先行きを案じて万引きをしようとする由希。光一は「人の物を盗むと、盗まれた人の苦しみが必ず自分に返ってくる」と激しく拒絶する。由希は「ほなら、なんであんたら人を殺したん」と毒づく。光一はその問いに答えられない。ふたりはワゴン車で旅をする咲樹と梢に出会い、一夜の宿と食事にありついた。その夜、由希は母にまつわる思い出を光一に語る。

<光一の回想>母・道子に連れられて、霧の中を車でニルヴァーナヘと向かう光一と朝子。施設では、子供たちだけの生活が待っていた。お供物と呼ばれる食事を放り出した光一は、子供たちの教育係で『シュローパ』こと伊沢から刑罰を受ける。

翌朝。咲樹と梢のふたりは恋人同七のようなのだが、咲樹にはどうやら別れた夫と息子がいるようだ。そのことがもとで咲樹と梢は激しく言い争い、梢はその場を飛び出してしまう。光一は震える咲樹の肩に静かに手を置いた。すると、咲樹の高ぶった心は不思議と落ち着いていくのだった。

咲樹たちと別れたふたりは電車を乗り継ぎ、やがて東京にたどりついた。街の掲示板に貼られた、テロ実行犯たちの指名手配のビラが目に留まる。そこには母・道子の写真も載っていた。

夜。ビルの非常階段。光一はドライバーを研ぎながら、自分と母を見捨てた祖父のことを由希に語る。

<光一の回想>二.ルヴァーナに入って数ヶ月が過ぎた頃、光一は他の成人信者を追い抜き、異例の早さで「ラヴァナ」というホーリー・ネームを得る。だがその一方で、吉岡という男性信者と女性信者の間の手紙のやりとりをこっそり手助けしてやっては飴玉を稼いでいた。ある日、教団幹部と同じ服を身につけた母がニルヴァーナにやってきた。しかし母は駆け寄る朝子を光一に押し戻し、すぐにその場を去ってしまう。その日、手紙のやりとりを手伝っていたことが発覚し、光一は幹部から折濫を受け、吊された。いつしか気を失った光一は、壁越しに語りかけてくる母の声で目を覚ます。「いま一生懸命頑張れば、いつかまたきっとみんなで一緒になれるの」。母は、今、特別なワークについているのだと光一に告げた。

祖父の家は既にもぬけの殻だった。塀や家の壁一面に書かれた落書き、石を投げ込まれて割れた窓ガラスを見てふたりは呆然とする。母が教団に属していることが世間に知られ、祖父たちも家にいられなくなったのだ。

行き先を失い、お金も底をついたふたり。由希は、出会い系サイトでお金を稼ごうとする。止める光一を無視して、待ち合わせ場所で男の車に乗り込む由希。走り出した車の中で由希がふとバックミラーを見やると、そこにバットを持って全速力で走る光一の姿があった。由希は驚きながらも素知らぬ振りをするが、やがてその姿も見えなくなってしまう。ところが信号で車が一時停止した時、再び曲がり角の奥から光一が必死に走ってきた。ボンネットに飛び乗り、光一は勢いよくバットを振り下ろす。そのタイミングで車から飛び出す由希。お互いを小突きあいながら、やがてふたりは手を取り合って逃げ出していく。

光一は伊沢に再会する。彼は脱会した元信者たちと小さなリサイクル工場を営んでいた。そこには光一が飴玉をせしめていた吉岡もいた。「ばあちゃん」と皆に呼ばれ親しまれている盲目の老婆は、由希のために折り紙で飛ぶ鳥を折ってみせた。彼らのもとで家族の温もりを覚えながら、光一と由希はひととき平和な日々を過ごす。だがそれも、テロの実行犯として指名手配を受けている「ジュナーナ」こと都村が伊沢を訪ねてきたことから破られる。
祖父の新しい住所を探し当ててもらい、ふたりの出発の日がやってきた。別れ際、伊沢は光一に向かって「おまえにとってニルヴァーナは何だった?」と問いかける。

ふたりは祖父が住んでいるという、高原の小さな駅に降り立った。バスを待つ間、雨宿りのために入った食堂で向かい合ってオムライスを食べながら、いつしか笑顔を見せる光一。その時、テレビのニュースが教団の幹部たちが集団自殺を計ったことを告げた。キャスターが読み上げてゆく教団幹部の名前。読み上げられる母の名前。光一は,うなり声をあげてテレビを床に叩きつけた。

スタッフ

監督:塩田明彦
製作:佐々木史朗
プロデューサー:松田広子
撮影:山崎裕
照明:佐藤譲
録音:郡弘道
美術:林千奈
編集:深野俊英
音楽:大友良英
イメージ・ソング:浜田真理子
エンディング・テーマ:向井秀徳
スチール:田尾沙織
企画・製作:オフィス・シロウズ

キャスト

石田法嗣
谷村美月
西島秀俊
甲田益也子
水橋研二
りょう
つぐみ
戸田昌宏
品川徹
井上雪子

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