原題:Mon Oncle

1958年度米アカデミー賞最優秀外国語映画賞 1958年度カンヌ映画祭特別賞 1958年度フランス批評家協会メリエス賞 1958年度ニューヨーク映画批評家協会年間ベストテン選出 第10回フランス映画祭横浜にて上映::http://www.unifrance.jp/yokohama/

フランス公開:02年5月29日

1958年/フランス・イタリア/カラー/116分 配給:ザジフィルムズ

ぼくたちの伯父さん ジャック・タチ フィルム・フェスティバル 2003年8月2日よりヴァージンシネマズ六本木にてロードショー

公開初日 2003/08/02

配給会社名 0089

解説


ぼくたちの伯父さん
ジャック・タチ フィルム・フェスティバル

没後20周年を迎えた2002年、カンヌ国際映画祭やフランス映画祭横浜でオマージュを捧げられた、監督/脚本家/俳優のジャック・タチ。パントマイム芸人出身のタチは、ヨレヨレの帽子に丈の短いコート、パイプをくわえて前のめりに歩く“ぼくの伯父さん”のユロ氏という映画史に残るキャラクターを生み出した。ユロ氏独特のナンセンス・ギャグと酒脱な作風は一世を風扉し、世界中で愛され続けている。
アメリカ・モダニズムの影響を受けたタチのセンスはクールで新しく、その世界観は今も映画のみならず最先端の建築/インテリア、美術、音楽、サブカルチャーに大きな形響を与えている。
存在感が希苅で正体不明の不思議なユロ氏のキャラクター。超モダンなハイテク住宅やユーモラスな魚の噴水。ガラス張りの空間や窓などで作り上げた偏し絵のギャグ。ラウンジブームを先取りしたノスタルジックで軽快な音楽、映像と音のずれによって生み出されるオフビート感。これらは一度目にしたり、耳にしたりしたら決して忘れられないものだ。ピエール・エテックスによるシンブルでキュートなポスターデザインも、タチのハイセンスなイメージを確立するのに大きな役割を果たした。日常に潜む人間の可笑しさを描き、きらりと光るおしゃれ感を漂わせて、現代人の触覚をも震えさせる要素を満載する万華鏡ワールド、それがジャック・タチの世界だ。
タチはヌーヴェルヴァーグの映画作家たちにも愛された。フランソワ・トリュフォーは批評家時代、有名な論文「フランス映画のある種の傾向」の中で、タチの『ぼくの伯父さんの休暇』を“作家の映画”としてロベール・ブレッソンの『田舎司祭の日記』と並び絶賛した。1967年、『プレイタイム』が批評家たちに酷評されたとき、憤慨したトリュフォーはタチ宛に熱い支持表明の書簡を送った。さらにトリュフォーは、70年の監督作『家庭』の中で、ユロ氏を登場させた。またタチと同じくアメリカ・モダニズムに影響を受けたゴダールは、自作『右側に気をつけろ』で、タチの『左側に気をつけろ』にオマージュを捧げている。なお、タルコフスキーの遺作『サクリファイス』の冒頭、子供が郵便配達の自転車を木に結び付け、郵便配達が転びそうになるシーンは、タチが生んだ人気キャラクター、郵便配達フランソワを意識したものだ。日本でも、『男はつらいよ』の車寅次郎のキャラクターはユロ氏に多大な影響を受けており、『ぼくの伯父さん』と副題がついたエピソードもある。
日常を淡々と描きながらも現代文明を鋭く批評し、時代を先取りしたタチの世界は、カンヌでの回顧上映をきっかけに再評価された。散逸していた幻の超大作『プレイタイム』のプリントは、ファッションデザイナーのアニエス・べーの協力の下、デジタル修復と音声トラックが録音し直されて一般公開された。
パリ、シャイヨー宮にあるシネマテークでの上映に際しては、ソワレにてタチの親戚で人気演出家のジェローム・デシャン一座によるパフォーマンスと舞踏会が行われ、連日満員札止めの大盛況となった。タチの映画のサウンドトラックや音源をサンプリングしたDJ、Mr.Untelによるりミックス盤は人気を呼び、この音楽に合わせて踊るというイベントも、公開期間中に開催されて若い人々の間でもタチ人気が沸騰した。
さらに、作品に表れるユニークな建築デザインにスポットを当てた展覧会の開催、研究本の出版など関連したイベントは数知れず。フランス映画祭横浜2002でもタチヘのオマージュとして『ぼくの伯父さん』の上映が行われ、ジェローム・デシャンとパートナーのマーシャ・マケイエフが来日したことも記憶に新しい。タチブームに沸いたパリの熱気をそのままに2003年初夏、“ぼくたちの伯父さん”ユロ氏のぴょこぴょこ歩く姿が、ニュープリントで蘇る。

ストーリー



プラスチック工場の社長、アルペル氏の邸宅は、至る所がオートメ化されたモダン住宅で、そこにはユロ氏の妹であるアルペル夫人と息子のジェラールが住んでいる。少年は堅苦しい家にいるよりも、下町に住む無職の伯父さんユロ氏と遊ぶのが大好きだ。アルペル氏と夫人は、この気ままに生きている伯父さんをなんとか就職させようとしたり、隣の奇妙な独身女性とお見合いさせようと、ガーデンパーティを開いたりする。ユロ氏はアルペル氏の工場に就職したものの仕事を失敗し、田舎へと転任することになる。別れの飛行場で、アルペル氏もようやく義兄ユロの遊び心を会得し、息子と打ち解ける。
前作で好評を博したユロ氏の、休暇ではない日常生活を淡々と描いたタチの長篇第三作目。前作の成功により、大きな予算を獲得したタチは、『のんき大将』以来の宿願だったカラー撮影で大胆な色彩設計を行い、大掛かりなオープンセットを組むことができた。それはパリ郊外のサン=モールに建てられたユロ氏のアパートとニースのヴィクトリーヌ撮影所に建てられたアルペル邸である。このセットは、対立する二つの場所、下町と超モダンな高級住宅地を視覚的にも対照的に見せる上で大きな役割を担っているばかりでなく、喜劇的な効果を生み出す装置にもなっている。最初と最後に画面を独占する犬たちの戯れる下町の舗道のシーンは、人間たちと動物たちを等価に見るタチの詩的眼差しが際立っている。
なお、本作でタチの信奉者であったピエール・エテックスがシナリオ・美術・俳優として協力し、独特の画風のポスターでタチのイメージを決定づけることになる。役者としての巧さよりも、もって生まれた資更、自然さを重視したタチは、一貫して職業俳優も素人も分け隔てなく使っている。アパートの愛らしい娘やジェラール少年は、タチが街で直接スカウトしたという。本作でタチ=ユロ氏神話は、いよいよ国際的にも普遍的なものとなるだるう。

エスクァイアマガジンジャパン刊 『E/Mブックス4:ジャック・タチ』より

スタッフ

製作:スペクタ・フィルム、グレイ・フィルム、
   アルテル・フィルム(パリ)、フィルム・デルチェントロ(ローマ)
監督:ジャック・タチ
脚本・台詞:ジャック・タチ
美術協力:ジャック・ラグランジュ、ジャン・ロット
撮影:ジャン・ブルグワン
音楽:フランク・バルセリーニ、アラン・ロマン
録音:ジャック・キャレール
助監督:アンリ・マルケ、ピエール・エテックス

キャスト

ユロ氏:ジャック・タチ
アルペル氏:ジャン・ピエール・ゾラ
アルペル夫人:アドリアンヌ・セルヴァンティ
ジェラール:アラン・ベクール
ピエール氏:ルシアン・フレジ
隣家の女性:ドミニク・マリー
管理人の娘:ベティ・シュナイダー
ウォルター:J=F・マルチアル
フェヴェリエ嬢:ドニーズ・ぺロンヌ

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