パニック・イン・ザ・ダーク

深海35000フィート、人類にとって過酷な状況下で起こる絶対絶命の危機！『レッドオクトーバーを追え』『アンダープレッシャー』『アビス』『リバイアサン』などなど深海の状況下を舞台にした深海パニック・アクション最新作！『オデッセイ2001』『パイソン』などで定評のある、ＵＦＯ ＬＬＣが製作した話題作。

【チェック・ポイント！】

　周囲から隔絶されたその地域で、男は職務に身を賭す正義感厚く周囲から愛される存在だった。しかし、ある日昔彼が逮捕したならず者の帰還の知らせが届けられる。男はならず者たちと対決するため住人たちに協力を求めるが、親しいと思っていた者たちも、臆病風と利己心に囚われて男への協力を拒む。孤立無援状態で戦いを決意する男の前に、無法者たちが到着した…そう、これはリアリズム志向の西部劇の名編として名高い『真昼の決闘』(52)のプロットである。この作品の脚本家であるカール・フォアマンは、50年代のハリウッドを席巻した“赤狩り”旋風の渦中で、そのブラック・リストに載せられたが、それでも勇気を持って立ち向かうことを忘れなかった一つの成果でもあるのだ。
　ＳＦ映画ブームの渦中に製作された『アウトランド』(81)は、オリジナルが持っていた政治性は消滅していたものの、西部の町から人類が宇宙へと進出した未来での木星の衛星イオの採掘工場へと舞台を移し、生産効率倍増のため鉱夫に麻薬の投与を与える企業の陰謀と、それを知った保安官の孤立無援の戦いといった具合に翻案した作品だ。後先…というか環境を全く考えずにショットガンをぶっ放す殺し屋など、“Ｓ”の部分での考証は噴飯ものだが、保安官役のショーン・コネリーを中心とした男臭いドラマと、見栄えのいい特撮場面などそんなに悪い印象の作品じゃなかった。薬の幻覚で死ぬ鉱夫たちの処理なんかも、いかにも特殊メイク隆盛期の産物って感じの創意(笑)があったしね。その後、香港でも舞台は宇宙じゃないけれど、隔絶された工場島を舞台にした『香港近未来バイオレンス／爆烈戦士』(86・香港らしく『ターミネーター』(84)も入ってたね)なんてのもあった。ところ変われど「男には、戦わなくてはならない時がある」ってのは、実現できるかどうかは兎も角として、やっぱ誰でも持ってる憧れの感情なんだわな。
　ということで、本作はＣＧＩを中心としたＶＦＸ技術でジャンル作品の新生再生産を続ける一方の、ＵＦＯによる深海版『アウトランド』な作品。光の届かぬ大規模な深海都市ということで、都市内の移動用にリニアモーターカーが走っていたりといった小道具の使われ方が、らしさを感じさせてくれる。ただ、光の届かない深海というのは判るんだけど、都市を後にしようとした深海捜査官が、離れた直後に惨事に見舞われた様子を目にして海底都市に戻るくだりがあるのだが、照明がいくつか落ちてるのかもしれないけれど、外観としてどんな惨事に腰をぬかしたのか判別不能だったりするのは見ていてストレスを感じてしまう。光が届かないから見えないは理屈としては正解であっても、作品世界を堪能させるには、見えないものをいかに嘘で視覚化するかが腕の見せ所でしょう。まぁそれでも、『アウトランド』の気圧ゼロ頭部破壊場面に対抗するかのごとき、超水圧による死みたいな工夫はちょっと面白いし、相変わらずショットガンぶっ放す殺し屋に対抗する捜査官の作戦は小技の効いたアイデア賞もの。ただ効率のよいＣＧＩ効果を得意とする製作会社だとしても、銃撃により飛び散る血飛沫までがポリゴン・ポリゴンした感じで描かれちゃうのはちょっと興醒めかも。
　深海捜査官のウィルに扮するのは、ＴＶシリーズ版『新スーパーマン』で注目され、未公開アクション（下記キャスト欄にあるように、公開作もあるけど）の出演作が続々リリースされているディーン・ケイン。男臭いヒーローというには、ちょっと甘めかな。なお、ヒロインじゃなくて看護婦（…ってならず者に脅かされて逃げるメガネさんかな？）役のクリシンダ・ケインは、ディーンの異父兄妹だ。
（殿井君人）