タイガーランド
原題:TIGERLAND
タイガーランド(アメリカのベトナム) それは戦地に赴く最後の試練の地 ぼくたちは、まだ本当の戦争を知らなかった…
2000年/アメリカ映画/ビスタサイズ/ドルビーSR・SRD/101min 配給:20世紀フォックス
2007年11月21日よりDVDリリース 2005年04月28日より特別編DVDリリース 2001年10月6日よりシャンテシネにて公開
(C)2001 TWENTIETH CENTURY FOX
公開初日 2001/10/06
配給会社名 0057
解説
1971年、激化するベトナム戦争のために次々と若者が戦地に送り込まれ、異国の地で命を散らしていた頃、ルイジアナ州ポーク基地のある小隊に戦争に反抗する二等兵がいた。彼の名はボズ。さまざまな抗議行動をとるボズに、小隊の若者たちの心は揺れ動き、やがて戦争の真実の姿に気づいていく。これは、暴力と狂気の中でただひとり正気を失わなかった男と、彼によって生きる希望を与えられた青年たちの繊細な心を美しくリアルな映像で描いたドラマである。
歩兵訓練の最終段階、間もなく戦地に送られる第3小隊の若者たち。ある者は、ヘミングウェイを夢見て、戦争体験をいずれ本にしようと考えていた。またある者は男であることを証明しようとし、ある者は避けられない現実に身を任せ、ある者は戦場に出る日を心待ちにしていた。体は立派でも、まだほんの子供にしかすぎない青年たちにとって、すでに開戦から10年たち、失敗と囁かれ出しているベトナム戦争の全容など想像もできなかった。ただ一人、ボズを除いては。能力がありながら常に人生の責任から逃れてきたボズは、軍隊からも逃げ出したくてたまらない。彼の抗議行動は戦争と軍隊の欺瞞をさらけ出していくが、同時に隊の他の者に動揺を与える。潰されかけていく者を、軍規の抜け道を使って次々と除隊させるボズ。しかし、ボズの懸命な努力にもかかわらず、彼らは“タイガーランド”に送られていく。そこは、ジャングルでの戦闘シュミレーションのために軍が作り上げたベトナム。最後の試練の場所だった。そこでボズは、自分でも予想もできなかった行動に走ることになる。
これは、戦争に旅立つ前の青年たちの小さな、
非常に個人的な心の中の物語だ〜ジョエル・シューマカー
ハリウッドはこれまで『ディア・ハンター』『プラトーン』『帰郷』など、ベトナム戦争についての傑作をいくつも生み出してきた。しかし、この映画はそのどれとも違う。戦場へ赴く前の若者たちの心の深奥に鋭い視線を向け、不安、恐怖、反抗心、諦観など彼らの嘘いつわりのない感情をヴィヴィッドにえぐり出す。それは、若者たちの心の叫び。彼らは肉体的にも精神的にも最も苛酷な軍隊の束縛に真っ向から向き合い、死と対峙しながらも、自分自身を見失うまいとする。そして、いつしか恐怖と裏返しの勇気を身につけ、愛と忠誠心で結ばれる。ヒリヒリと胸を突き刺すようなディテールのリアリティが若者たちの友情をクローズアップして、観る者の心を揺さぶらずにはおかない。
そもそもこの映画は、脚本家ロス・クラヴァン自身の経験に基づいて書き上げられた。71年にタイガーランドに送り込まれた彼は、ここで軍隊という歯車が青年たちを根こそぎ戦争へと駆り出すのを目の当たりにした。彼らは愛国心からではなく、他に選択肢がなかったから戦地へ向かったのだ。
全米批評家が大絶賛 ハリウッドに新風吹き込む
スター誕生、コリン・ファレル
そして『タイガーランド』の核にあるのは、このような運命を受け入れることを拒否するボズという若者の存在。この印象的で魅力的なキャラクターは、クラヴァンが実際に出会った人物をもとに作られた。監督のジョエル・シューマカーは「狂った状況の中で、正気を失わずにいたボズに強く惹かれた」と語っている。不敵な笑みを浮かべ、何を考えているのか分からないのに、人を惹きつけずにはおかないボズ。最も軍隊から逃げ出したいと思っているのに、逆に他の若者たちをベトナム行きから救い出す彼の心の矛盾がたまらなく人間くさく、完璧でないヒーロー像に新鮮さを感じる。演じるコリン・ファレルは、この作品をきっかけにブルース・ウィリス主演の “Hart’s War”、スピルバーグ監督の『マイノリティ・リポート』と次々に話題作の出演が決まっている注目の若手俳優である。
ジョエル・シューマカーの新たな一歩
ドグマがもたらしたリアルで美しい映像
これまで『バットマン』シリーズやジョン・グリシャム原作の『依頼人』『評決のとき』などイベント的大作を立て続けに撮っていたシューマカー監督は、ここから離れるために『8mm』や『フローレス』などパーソナルな小品を手がけていた。そして、それを押し進めたところに『タイガーランド』の脚本があった。
シューマカーは『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のラース・フォン・トリアー監督らが主唱する《ドグマ95》に賛同し、ハリウッドの技術を排して撮影を進めた。撮影は16mmカメラにより、ほとんど手持ち撮影で行われた。照明と音楽を極力排し、特殊効果も取り払った。そこからはドキュメンタリーを思わせるような臨場感溢れる映像が紡ぎ出された。
キャスティングに当たっても、同じような配慮がなされた。主要なキャラクターには比較的知られていない俳優が選ばれ、2週間にわたってキャンプで新兵の訓練が行われた。彼らは全員がノーメイクで、スタントもすべて本人たちがこなしている。ちなみに、語り部でもあるボズの友人パクストンに抜擢されたマシュー・デイビスは、この役を経て『パール・ハーバー』への出演を果たしている。
撮影監督はダ−レン・アロノフスキーの『π〈パイ〉』『レクイエム・フォー・ドリーム』の刺激的な映像で注目されたマシュー・リバティック。リアルなイメージを作り出したプロダクション・デザイナーはハンプトン・ファンチャー監督のブラック・スリラー“The Minus Man”に続いてこれが2作目となるアンドリュー・ロウズ。編集は『8mm』、『フローレス』、『バットマン フォーエヴァー』、『バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲!!』でシューマカー監督と組んでいるマーク・スティーブンス。『ボーイズ・ドント・クライ』のネーサン・ラーソンが音楽を担当している。
ストーリー
1971年、ルイジアナ州・ポーク基地。最終歩兵訓練を行う第3部隊A中隊の新兵たちに上官たちの罵声が飛ぶ。彼らはここで8週間の訓練を受けた後、第2の地獄と呼ばれる“タイガーランド”で実戦さながらの1週間を過ごし、ベトナムに送られていくのだ。そんなA中隊に、上官にたてついては懲罰房通いを続けているボズ(コリン・ファレル)が加わる。
外出禁止令を無視して町のバーに繰り出したボズは、ここでパクストン(マシュー・デイビス)と出会って一緒に女の子をナンパし、二人で語り合う。テキサス出身のボズはいつか軍隊を逃げ出そうと思っている。一方、パクストンはニューヨーク出身の志願兵。戦争体験を記録して、いつか本を出版したいと考えていた。
兵舎に帰ったボズは罰として穴掘りをさせられ、文字通り泥を食わされる。そんなボズにふざけて声をかけたカントウェル(トーマス・グイリー)が、ボズの身代わりと称して夜の武器庫で軍曹に殴られる。さらには、戦場に出たくてうずうずしているウィルソン(シア・ウィグハム)がボズに喧嘩をふっかけ、小隊長のマイター(クリフトン・コリンズ・ジュニア)は、厄介事ばかり起こすボズに頭を悩ます。 ある日の射撃訓練で、ボズは自分が命中させた標的をカントウェルに譲ってやる。成績が悪いと制裁を受けるからだ。一緒にジャガイモの皮を剥きながら、カントウェルはボズに身の上を語った。15歳で結婚して4人の子供がいるが、妻は病身で面倒を見ることもできない。遠い家族をも照らす月をじっと見上げるカントウェルの姿に、ボズは「俺が除隊させてやる」と息巻く。
ボズは軍規の抜け穴を知っていて、これまで何人もの新兵を除隊させていたのだ。早速、ボズの入れ知恵で除隊を申請するカントウェル。翌日、彼は晴れやかな笑顔を浮かべ、敬礼して基地を出て行った。
その日、演習場から帰るトラックでマイターとジョンソン(ラッセル・リチャードソン)が喧嘩を始めた。ボズはこれを止めようとして排気管に細工をして車を停止させる。上官に問い詰められて犯人だと名乗り出たのは、パクストンだった。懲罰としてトラックから降ろされるパクストン。車が動き始めると、ボズも飛び降りる。「人助けをしたわけじゃない」というパクストンと並んで、ボズは走り出す。
翌日の訓練は敵を拷問するための電気ショックの説明だった。「なぜ人間同士がこんなことを!」と怒って立ち去るボズ。彼を連れ戻せとの上官命令を遂行できなかったマイターは、電気ショックの実験台にされる。
また、ある日の実弾訓練。軍曹は溝の中に身を隠していた小隊に「出ろ!」と命ずるが、ボスが「出るな!」と言うと誰も動こうとしない。いつしか、ボズは仲間の信頼を得て、小隊全体に大きな変化をもたらしていた。その一方で、マイターがボズと上官の間で悩んだ末に、精神不安定になる。代わって小隊長に任命されたボズの、「力を合わせて生き残ろう。逃げたい奴は言え」という人間味ある言葉は仲間たちを驚かせ、感動させる。しかし、ウィルソンのボズに対する憎悪は、増幅するばかりだった。
その夜、ボズはマイターが脱走しようといているのを見つけて押しとめた。マイターは、国では肉屋だが、金にならず父親と妻にばかにされ、自分の稼ぎで妻を短大に行かせてやったのに、陰で浮気されていたことを語る。マイターにとって戦争の英雄になることが見返す方法だったのだ。ボズは精神科の治療を名目にマイターを除隊させることにする。翌朝、笑顔で基地を出て行くマイターを、ボズはいつものように「くたばれ!」と言いながら見送った。
ボズの兵士としての優秀さは誰もが認めるところだった。彼は単なる生死の問題ではなく、殺し合うのがいやだった。戦争自体も、戦うのが男だという理念も嘘にまみれている。彼は反戦を身をもって体現していた。ある夜、パクストンと町で酒をしこたま飲んだボズは、廃車場の列車の上から飛び降りて脚でも折ればベトナムに行かなくてもすむと話し合った。しかし、いざとなると足がすくむ。ボズはメキシコへ逃げるつもりだった。彼が逃げれば代わりに誰かが死ぬだけだ。ボズが言う。「勇気は恐れの裏返しだ」と。パクストンは答える。「それなら俺にも勇気がある」と。
翌朝、兵舎に帰ってきたふたりを見つけたウィルソンがボズに殴りかかってくる。逆にボズに傷だらけにされてウィルソンは怒りを押さえることができない。その日の射撃訓練の最中、ウィルソンは実弾を込めた銃をボズに向けた。弾が詰まって九死に一生を得たボズは、上官にウィルソンを軍法会議に告訴すると言う。上官は大学を中退した過去を持つボズに「リーダーになれるのに、その責任を逃げている。おまえは人生を捨てている」と揶揄する。
翌日からウィルソンの姿が消えた。そして、新兵たちはいよいよ“タイガーランド”に送られた。睡眠時間は1時間。教官は「ものを考えるな。敵を発見し、殺すことだけ考えろ!」と叱咤する。ジャングルでの訓練は過酷を極め、怪我をしたパクストンは次第に遅れを取り始める。
敵味方に分かれての実戦訓練、ボズ率いる小隊の前に現れたのはウィルソンだった。ボズに対する憎しみで狂わんばかりのウィルソンは、本気でボズを殺そうと向かってくる。
夜、野営している小隊からそっと抜け出したボズ。切られた鉄条網の向こうには女が迎えに来ていた。ついに地獄から脱出する時がきたのだ。しかし、これに気づいたジョンソンが止める。「ウィルソンはおまえへの憎しみでパクストンを殺るぞ」と。ボズは黙って暗闇に去っていった。
翌朝、曹長がボズの姿がないのに気づいた。しかしその時、ジャングルの中から彼が現れる。「メキシコへ逃げようと思ったので」と、冗談めかして言うボズ。
再び、敵味方に分かれての攻防戦が始まる。狂気に血走ったウィルソンは、またしても実弾でボズを狙ってきた。銃弾の嵐の中、ボズは自分自身でも思ってもみなかった行動にでる。「みんなここで殺られなくても、ベトナムで殺られる」それは、ベトナム出兵から逃れられない自分とは違う人生を、誰かに託してきたボズらしいやり方だった。
スタッフ
監督:ジョエル・シューマカー
脚本:ロス・クラヴァン&マイケル・マクグルーサー
製作:アーノン・ミルチャン、スティーブン・ハフト、ボー・フリン
製作総指揮:テッド・カーダイラ
撮影監督:マシュー・リバティック
プロダクション・デザイナー:アンドリュー・ロウズ
編集:マーク・スティーブンス
音楽:ネーサン・ラーソン
キャスト
ボズ:コリン・ファレル
バクストン:マシュー・デイヴィス
マイター:クリフトン・コリンズ・ジュニア
カントウェル:トーマス・グイリー
ウィルソン:シア・ウィグハム
ジョンソン:ラッセル・リチャードソン
コータ軍曹:コール・ハウザー
サンダース大尉:ニック・シアシー
ランダース軍曹:アフェモ・オミラミ
トーマス軍曹:ジェームズ・マクドナルド
エヴェランド軍曹:マット・ジェラルド
ドレーグ軍曹:ステファン・フルトン
MP軍曹:タイラー・クレーヴァンス
運転手:マイケル・エドミストン
シェリー:エリアン・アッシュ
クローディア:ヘヴェン・ガストン
フィルモア訓練軍曹:マイケル・シャノン
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