原題:CROSS OF IRON

敗北すれば、次の戦争をやるだけだ

1977年/イギリス=ドイツ合作/133min/カラー/ヴィスタサイズ(1:1.85) 翻訳:落合寿和/配給:(株)ケイブルホーグ/宣伝協力:(有)ベイサイド・オフィス

2010年08月04日よりDVDリリース 2000年8月25日よりビデオレンタル開始 2000年8月25日よりDVD発売 2000年2月19日より渋谷シネ・アミューズにてロードショー!

公開初日 2000/02/19

配給会社名 0029

解説

リアリズムをぬりかえた作家、サム・ペキンパー

1980年代、アメリカ映画はベトナム戦争の影響により、反戦ムード一色となっていた。それらの大作が発表されるなか、異色の戦争映画が先陣をきって送り出された。それは、アメリカ人の視点で捉える、第二次世界大戦東部戦線で敗退したドイツ陸軍兵の物語、この『戦争のはらわた』である。
指揮を執ったのは、悪名高き孤高の巨匠、サム・ペキンパー。そこに描かれる世界は、戦争映画の“敵対味方”“誇り高き兵士”という定説をぶち破ったもの。
鳴りやまぬ爆撃音、飛び交う砲弾、血と泥の入り交じる擦り切れた軍服。泥の中に深く沈み、そして粉々にあたり一面に転がった無数の死体。“戦場”というものの極限状態を、ただ、その瞬間を生き抜くことだけで精一杯な男たち……壮絶な現実はすべてを狂わせる。祖国の理想のために、栄誉のために大量殺人を繰り返すのか?敵も味方も境界さえも失われる空間。いったい誰が敵なのだ?果たして憎むべきものは何所だ?何故、戦い続けるのか?
ここで描かれた泥まみれの兵士たちによって、戦争映画というジャンルのリアリティが変貌したといっても過言ではない。先駆けること23年。この物語の誕生がなければ『地獄の黙示録』(79)や『プラトーン』(86)、そして『プライベート・ライアン』(98)『シン・レッド・ライン』(99)は生まれることができたであろうか。真実の恐怖は“戦争”にあるのではなく、“戦場そのもの”であったことを誰もが思い知らされたのだ。

ストーリー

1943年、第二次世界大戦東部戦線。一時はスターリングラードにまで侵攻したドイツ陸軍も、いまやソ連軍の反撃の前に押し返されて行くばかり。日を追うごとに西側へと退却を余儀なくされている。
その混乱極めた最前線を死守するのは、ブラント大佐率いるドイツ陸軍連隊であった。彼らの日常は、第三帝国の栄誉も祖国の誇りさえもない。ただ、今日一日を生き延びるために前へ進むのだ。
数々の困難な陸上戦を経験してきた兵士たちは銃弾や手榴弾、迫撃砲、20ミリ砲弾などに次々と倒れていく。彼らの穴埋めに送られてくるのは全く実戦経験がない若い兵士たち。泥の中や冷たい灰色の空の下で無惨にも死んでいく兵士たちの血は、まるでヒトラーの世界征服の野望が消えようとしていることを示すかのようだ。そして誰もが皆、敗北の予感を色濃く感じずにはいられないのだ。
とくに第2小隊は伍長、シュタイナーは異常な毎日が日常となる日々にウンザリしていた。30をとっくに過ぎたベテラン兵士である彼は、戦術にたけた優秀な戦士。実戦で鍛えぬかれ、彼の命令に絶対的な信頼を寄せて従う部下たちも、連隊の中では一目置かれている。彼は、肩書きはご立派だが、壕の中に隠れ、地図の上や電話だけで戦術を指示する将校たちを、心の底から軽蔑している。そのため、将校たちとのトラブルは避けられぬものとなっていた。

かっては、捕虜の銃殺刑を行う将校に反抗して少尉から伍長へと格下げとなってしまった彼を息子のように思い、時には厳格な軍隊規律から庇ってきたシュタイナーの上官、ブラント大佐。そしてブラント大佐の副官、キーゼル大尉は何者にも屈せず、富や昇進などにも興味がない、そして何よりも部下を大切に考えるシュタイナーを尊敬していた。
そこへ新しい大隊の指揮官として、シュトランスキー大尉が着任する。プロイセン貴族の末裔である彼は、この前線へ自ら志願してやってきたのだ。シュトランスキーの志願には名誉欲があると直感するブラント大佐とキーゼル大尉。彼が狙っているのは勇敢な戦い現場で部下を指揮したものだけに与えられる最高の勲章“鉄十字章=Cross of Iron”。プライドが高く傲慢な彼は、ドイツが負ける可能性を否定し、そして自分は弱気になっている軍隊の士気を高めるために、わざわざやって来たと強がる。“無敵のソ連”を阻むことが自分の使命だと。
激しいゲリラ戦で功績を上げて壕へと戻ってきた第2小隊たちは、新しく赴任したシュトランスキー大尉とバッタリ出くわす。シュタイナーはソ連の少年を捕虜として連れ立っていた。
「すぐに射殺しろ」と命令する大尉。
「それではご自分の手で」と拳銃を差し出すシュタイナー。
最初から2人の関係は険悪なものになった。

シュトランスキー大尉は、兵士たちが皆、シュタイナーを尊敬していることに気づく。手始めに取り掛かったのは、連隊一の勇士を手名付けること。その策略のため、シュタイナーを伍長から軍曹に昇進させる。しかし、彼にとっては何の効果もない。逆にシュタイナーや他の兵士たちから不信感を強める結果となってしまった。
今度は自分の副官であり、赴任したばかりというトリービッヒ少尉と若い伝令兵が、ホモセクシュアルの関係であることに感づいた。
「これが知れたら、お前たちは死刑だ}と2人を脅迫するシュトランスキー。これも、非常事態に備えた切り札なのだ。

ゲリラ戦の効果でソ連兵が遅れをとっている、ほんのちっぽけな休暇。仲間のマイヤー少尉の誕生日。彼を祝い、酒を飲み交わす第2小隊の兵士たち。しかし、自分たちのすぐそばには“死の恐怖”が迫っている。

捕虜としていた少年兵に自由を与えようと、森の奥へと逃がしてやるシュタイナー。しかしその少年は潜んでいたソ連兵に蜂の巣にされてしまう。シュタイナーが嘆きの声も上げられぬまま、ソ連の総攻撃が始まった。ドイツの塹壕にまで踏み入る敵歩兵の大部隊。次々と銃弾に倒れる仲間たち。激しい戦いが繰り広げられるなか、負傷した仲間を救うためにシュタイナーはひとり砲弾の中へ飛び込んでいく。
不幸中の幸い、砲弾は彼のすぐ近くで爆発し、その爆風に吹き飛ばされたシュタイナーは頭を強く打ち、すぐに基地病院に送られてしまった。
入院中の彼を支えたのは看護婦のエヴァであった。彼女は前線で戦う兵士たちのケガや死をいくつも目の当たりにしてきた、心優しい精神病医。シュタイナーは、相当なダメージを受け、幻覚や幻聴に悩まされる毎日。それを献身的に介護するエヴァ。いつしかそれは愛情へと変わっていったのだ。
一方シュトランスキーは、シュタイナーの不在をいいことに、自分が小隊を指揮してソ連に反撃したと上層部に報告する。この功績で、“鉄十字章”の受賞が確実になるからだ。トリービッヒは素直に受賞の申請書類にサインをする。もうひとつの署名にはシュタイナーの名が必要だった。
ソ連の猛反撃の時、小隊の兵士たちは知っていたのだ。シュトランスキーとトリービッヒは、指揮するどころか恐怖のあまり壕でちぢこまっていたことを。
穏やかな闘病生活は暫し前線の緊張感をほぐしてくれるものだった。シュタイナーの病気は完治不能と判断され、帰国命令が通っていた。これからは、穏やかにエヴァと暮らすのだと淡い幸福に満たされていたシュタイナー。しかし、彼の悪夢は彼自身にあったのだ。
ケガをした小隊の部下が前線へ送られる姿を見た瞬間、シュタイナーはエヴァの眠るベッドから這い出してしまう。
「あなたは戦争が好きなのよ」。エヴァの言葉を無言で立ちきるシュタイナー。

前線へ戻ってきたシュタイナーを大歓迎する戦友たち。シュトランスキーも彼が戻るのを心待ちにしていた。シュタイナーを呼び寄せ、すぐに推薦状の署名に協力して欲しいとせがむシュトランスキー。
「そんなに欲しければ、俺のをやる」。無論、彼はサインをしなかった。
ブラント大佐は、軍の要請で調査にかかった。しかし、あの激しい戦場でシュトランスキーを見たものは誰一人といない。シュタイナーを問い詰めると、やはり、彼は壕の中に隠れていたという。大佐は上層部に本当のことを報告しろと命令するが、それすらも全く興味のないシュタイナー。

さらにソ連軍は勢いを増してきた。ブラント大佐は退却ではなく敗退を決断しなければならなかった。そして、すべての部隊の撤退号令が下され、速やかに連絡が行き届いたはずであった。しかし、シュトランスキーはトリービッヒと共謀し、シュタイナーの小隊にその命令が伝わらないように細工する。シュタイナーさえ死ねば、サインがなくとも“鉄十字章”をもらえることになるからだ。

敵に包囲され孤軍奮闘を強いられる第2小隊。シュタイナーの戦術により、ロシア女性で構成された部隊をとらえ、敵の軍服に部下を着替えさせる。そして見事にロシアの陣地から脱出に成功したのだ。

夜明け前、“境界線”という非常事態の暗号が送られた。第2小隊は“捕虜を従え、大隊へ戻る”と。しかし、このメッセージがシュトランスキーとトリービッヒに傍受されてしまう。彼らはソ連の罠かもしれないと言い、機関銃部隊に発砲を指示する。
シュタイナーの小隊が次々と味方銃弾に倒れる。怒り狂う彼は、銃弾雨をくぐり抜け、トリービッヒを撃ち殺す。
ブラント大佐はすべての終わりが近いと自ら前線へ立ちはだかった。もう一人の心の息子、キーゼルだけでも生き残ることを祈りながら……。
シュタイナーは壕に潜んでいるシュトランスキーを探しあてた。
「お前は俺の小隊だ。鉄十字をもらうには、そう戦えばいいか見せてやる」。
「こっちこそ、プロイセン人の戦い方を見せてやる」。
2人の男が、ソ連の猛攻の中を前へ前へと進んでゆく。彼らは知っていた。この戦いが終ったら、また次の戦いが始まることを……。

スタッフ

監督:サム・ペキンパー
プロデューサー:ヴォルフ・C・ハルトウィッヒ
脚本:ジュリアス・J・エプステイン、ハーバート・アスモディ
原作:ウィリー・ハインリッヒ
撮影:ジョン・コキュロン
編集:トニー・ローソン、マイク・エリス
美術:テッド・ハワース、ブライアン・アクライド・スノー
音楽:アーネスト・ゴールド
カメラ・オペレーター:ハービー・スミス
撮影補佐:トニー・ブリーズ
音響:デヴィッド・ヒルディヤード
第1助監督:バート・バット
第2助監督:クリス・カレラス
製作補佐:ディータ・ノブ
メイク:コリン・アーサー
ヘアー:イヴリン・ドーリンク
衣裳:ジョセフィン・サツィンガー
特殊効果:リチャード・リッチフィールド、ハルムート・クーリー
軍事指導:メジャー・A・D・シュロデク
アクション指導:ペーター・ブライアム
編集補:ジョージ・エーカーズ、パット・ブレナン、ロニー・レヤー
音響編集:ロドニー・ホランド
ダビング・ミキサー:ビル・ローウェ
音楽編集:ロビン・クラーク
オーケストラ編集:ジェラルド・シャーマン

キャスト

シュタイナー伍長:ジェームズ・コバーン
シュトランスキー大尉:マクシミリアン・シェル
ブラント大佐:ジェームズ・メイスン
キーゼル大尉:デイヴィッド・ワグナー
クリューガー:クラウス・ロウィッチ
カーン:パディム・グロウナ
トリービッヒ少尉:ロジャー・フリッツ
アンゼルハム:ディーター・シードア
マーグ:バクハート・ドリースト
シュヌルバート:フレッド・スティルクラウス
ディーツ:ミハイル・ノブカ
ツォル:アーサー・ブラウス
エヴァ:センタ・バーガー

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